多すぎる情報は苦痛になる時があります。特に初めての人には。
かつて、
そのことに気づかずによかれと思ってサービス精神で初めての人にも情報のシャワーを浴びせていたおせっかいガイドがいました。
今そのガイドは後悔の記憶を胸に
『情報はひとつだけツアー京都』シリーズ
を立ち上げましたとさ。
てゆーかそのガイドとは私です。
第一回目は『曼殊院門跡(まんしゅいんもんぜき)』
秋の紅葉、
ライトアップ、
額縁庭園、
黄不動(きふどう)、
皇室との関係(門跡(もんぜき)とは皇室と関係ある人が住職を務めたお寺につけられます。)、
などなど、
曼殊院門跡には見どころがたくさんありますが
ひとつだけと言われたら私は
『もののあわれの技を伝える手水鉢(ちょうずばち)』を選びます。
ピンと来ないかた、五分ください!五分で点と点をつなげて線というストーリーにします。
(さらに時短がいい人はYoutube動画をどうぞ↓二分半です)
『もののあわれの技』は千年前から伝わる技です。
『もののあわれ』という言葉、日本で教育を受けたかたなら聞いたことはあるのではないでしょうか?そう、「源氏物語はもののあわれの文学です。」とかいうあれです。
でも
私もこの仕事をするまでそうですが、ほとんどの人がぼんやりとしか意味をわかっていません。意味を知らなくても生きていけますし、楽しくやっていけますが、ガイドとしてお客様の京都観光を手っ取り早くもう一段階楽しいものにできる知識は何かと考えたとき、歴史や美術品や建築や仏教の勉強をするよりもよっぽど時短です。なんせ五分ですから。
『もののあわれ』
いちばんわかりやすく翻訳します
「もの」は漠然とすべてのもの、英語でいうとanything
「あわれ」はうっとり。語源は「ああっ!」と情が動くときの感嘆語です。
あわせると『もののあわれ』は『すべてのものにうっとり』と翻訳できます。
人間の脳の中心部の原始的な部分はこの世界をざっくりとふたつに分けます。
『いいもの』と『いやなもの』です。
両方あわせるとヒトにとってこの世界のすべてになります。
『いいもの』にうっとりするのは簡単です。本能の反応に従えばいい。
すべてのものにうっとりするためには『いやなもの』にもうっとりしなければなりません。
それにはコツが必要です。
なんせ本能がいやがりますからね、、、
曼殊院ではこのコツをひとつ見ることができます。
実は京都は街全体がこのコツの特別展示会場みたいなものなんです。だから『もののあわれ』目線で見ると京都観光は手っ取り早く一段階楽しくなるというしくみです。
このコツをひとつひとつ習得して行くと『もののあわれの技』のマスターに近づいていくわけてすが、都合のいいことに京都はこのコツの密集地帯です。この密度はおそらく日本一でしょう。これは時短です。観光しながらマスターに近づけるという一石二鳥都市。
よかったらご一緒しませんか?
後悔ガイドはもう、けして、初めてのかたに情報のシャワーを浴びせるようなヘマはいたしません。ひとつひとつ、でも私の知る『もののあわれの技』の全てを出し惜しみなくお伝えしますので。
ちなみに『もののあわれ』を辞書やネットで検索すると『うつろいを愛でる』とよく翻訳されますが、『すべてのものにうっとり』と同じ意味です。この世界のすべてはうつろうからです。
うららかな春は暑くうんざりする夏に
さわやかな秋は寒くさみしい冬に
出会いは別れに
生は死に
楽しいはさみしいに
うつろいます。
残念ながら必ずうつろいます。
もののあわれの技マスター紫式部の時代から千年後の科学が私に教えてくれたこと。どうやら地球は自分自身をかき混ぜたいようです。これがシンプルに地球の目的。そして冷えて固まった地球の表面をかき混ぜるために生まれたのが生物。これが地球目線で見た生物の目的。この地球が自分自身をかき混ぜる行為が原因で起こる結果がヒトが名付けたうつろいです。
しかしヒトにとって都合悪いことに
自分もこの地球のかき混ぜ行為の一手段として誕生した生物のひとつであるのにもかかわらず
うつろいの先にはだいたいヒトの本能がいやがるものが待っています。
そのうつろいの先にあるものから、ただ目をそむけるのではなく、または、いやがりながら待つのではなく、上から目線で愛でてやろうという技が『もののあわれの技』
『源氏物語』は表面上は小説ですが実は『もののあわれの技』の伝授本です。
紫式部は俯瞰でこの世界を見下ろし、神道の神である天皇や、上級貴族さえ見下ろし、めぐりくるいいものもいやなものも両方愛でる世界観を小説で表現しました。まさにもののあわれ、すべてのものにうっとり。
紫式部の正体は、心最強、上から目線の人でした。
藤原定家(ふじわらのていか)が晩年、なぜ命をかけて『源氏物語』を後世に残そうとしたのか、
ガイドの学校で習った時には「なんでこんな平安ドタバタラブコメ&わやくちゃできすぎ出世サクセスストーリーを命をかけてまで???」と、全く藤原定家の意図がわからなかった私ですが、今はしっくりきます。
『源氏物語』がうつろいの先にあるものを受け入れて愛でるという日本人の究極奥義の伝授本だったからです。
第一回目なので長くなりましたが前置きは以上です。曼殊院に行きましょう。
そんな『もののあわれの技』を完成に導くコツのひとつが曼殊院門跡にあります。
この手水鉢です。
この手水鉢はわざと少し傾けられています。
太陽が反射するあたりの天井を見上げちゃってください!
ちなみに曼殊院に限らず、お寺で天井を見上げると時々何か発見があります。「仏教では視野を広げることがたいせつなんです。」と教えてくれた住職がいました。だ、そうですよ。
曼殊院の手水鉢の正体は
本能がいやがる暑い夏を愛でる技でした。