T1 垣間見の技ひとつだけツアー京都

目次

後悔(ケース1)

Take1

客「京都初心者一人旅。でも私、歴史や仏教や美術品の知識が無くて・・・。こんな私でも京都を楽しめますか?」

私「全然大丈夫です。確かに詳しい人しか楽しめないスポットもあるにはありますが、そこの選択は任せてください!問題は何をテーマにするかです。例えば、季節の花と食べ物がテーマのツアーなんてどうですか?」

客「花か~。嫌いじゃないけど、なんかありきたり。」

私「じゃあ、体験ものはどうですか?お菓子作り。工芸品作り。禅とか茶道とか?」

客「それなりに楽しそうだけど、なんとなく気分じゃないなあ。」

私「それなら、変わったところで、怖い話とオカルトスポット巡りなんてどうですか?」

客「怖いのは苦手!」

私「何かご希望あります?ここは必ず訪れたいスポットとか?」

客「必ず訪れたいスポットとかはないんですけど~、あの~・・・」

私「なんですか?♪よかったらおっしゃってください。ご期待に添いたいです。」

客「私、知識欲はあるんです。でもあんまり情報量が多いとうんざりしてしまうタイプで・・・」

私「ふんふんふん、」

客「短時間の知識の詰め込みで世界が変わるようなツアーないですか?」

私「『世界が変わる。』とは、今までのものの見え方が変わるような知識っていうことですか?」

客「そう!」

私「ありますよ!まだ企画段階なんですけどね、千年前の日本人の究極奥義『もののあわれの技』を習得するツアーです。世界の見え方が変わるかもしれません。」

客「そんなのあるの!それがいい!」

私「究極奥義『もののあわれの技』の完成に導く七つの技を習得しながら観光地を巡るツアーで、・・・」

客「ちょ、ちょっと待って!」

私「は、はい?」

客「七つも技あるの?ひとつだけになんない?」

私「へ?ひとつだけ?なんでですか?」

客「だーかーら、言ってんじゃん。私、情報が多すぎると混乱してうんざりしちゃうタイプなの。ひとつだけで生きてきたし。ひとつだけがいい。ひとつだけにして。」

私「うーん・・・。できるだけ説明短くしますから、七つの技じゃだめですか?」

客「ダメ。ひとつだけ。私は。」

私「ちょっと時間ください。ひとつだけで成り立つかどうか、頭の中でシュミレーションしてみます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・プハーッ!」

客「想像中は息をしないんだ、、、。」

私「シュミレーション失敗。もう一度トライしますね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・プハーッ!」

客「息継ぎしなさいよ、、、!」

私「お客さん、シュミレーションしてみましたけど、自信ないです、、。ツアーがグダグダになってしまう可能性があります。次回までに技ひとつだけのツアーも立ち上げておきますから、今回は『脳が勝手に喜ぶスポットツアー』にしてみませんか。ガイドからの多すぎる情報がないツアーです。理屈ではなく世界観が変わる風景に出会えるかもしれません。」

客「ふう。じゃあもういいです。」

私「え!待ってください。え!あ!行っちゃった。」

・・・・・

後悔。

これはガイドである私とあるお客様の間で実際に交わされたやりとりを単純化したものです。

「次回までに用意しておきます。」「調べておきます。」はガイドのマニュアル。が、実際は、私たちガイドの仕事は一期一会。リピーターになってくれるお客さんもいるにはいますがまあ少ないです。『次回はない』といつも考えるべき。事実、約束通り『ひとつだけの技ツアー』を完成させて待っているのですが、あのお客さんはまだ現れません。あの時はなんてわがままなお客さんだと思ってしまいましたが今考えるとただ単に素直で正直なお客さんでした。理解できない言動にも、私にわからないだけで理由はあるもの。「短時間で世界観を変えたい」、「ひとつだけがいい」にもきっと何か理由がある。それなのに,、たったひとりで何かをもとめてわざわざ京都に来てくれたお客さんから私はマニュアルを使って逃げてしまった。直感でこのお客さんに合いそうなツアーが私の頭の中に思いついたのにも関わらずです。自分のリスクを避けて逃げた。一回しかないチャンスに尻尾を巻いて逃げた。なんて役立たずガイド。

どうかリベンジさせてください。

Take2

客「京都初心者一人旅。だけど私、歴史や仏教や美術品の知識が無くて・・・。こんな私でも京都を楽しめますか?」

私「全然大丈夫ですよ!でも季節の花や食べ物、体験もの、怖い話やオカルトはお客さん今は気分じゃないですよね。」

客「へ!なんでわかるの。」

私「わかりますよ~。短時間で世界観を変えたいんでしょう。フッフッフ。」

客「何そのキャラ!怖いって!なんでわかるの!」

私「細かいことは気にしないで。だってお客さん、話が長いとどっか行っちゃうでしょ。」

客「そうだけど。知りすぎてて怖いってアンタ。」

私「どうか気にしないで。時間短縮ワープです。お客さんにも何か理由があるように、私にも理由があるんです。聞くのはお互い野暮ですよ。言えることは、このツアーが成功したら、お互いウィンウインだということ。」

客「ふーん。謎は多いけどその理屈面白い。ワケありガイドとワケありの客がウインウインになるツアーなのね。」

私「そうです。ワケありガイドはもう逃げません。」

客「アハハ、それじゃあかつては何かから逃げたんだね。」

私「ええ。お察しの通りです。(あなたからね、、)」

客「で、料金は?」

私「無料です。」

客「タダなの!」

私「ええ、罪滅ぼしと感謝のツアーですから。」

客「わかった。世界を変えてくれるんだよね。」

私「ええ。でも、私が変えるんじゃなく、お客様が変えるんです。技をひとつだけおぼえて。」

客「ひとつだけ。私の好みまで知ってる?!こわ。でも乗った。無料だし。」

私「そうこなくちゃ。では早速旅のしおりをどうぞ。」

客「アンタ、今そのしおりどこから出したの?!」

私「細かいことは気にしないで。」

招待状

垣間見の技ひとつだけツアーbyバリアフリーツアー京都

旅のしおり

もちもの 垣間見の技

集合場所 京都駅

行程

  1. 圓通寺
  2. 三千院
  3. 嵐山 竹林
  4. 松尾大社
  5. 光明院

客「もちもの。『垣間見の技』?って、私もってないんですけど」

私「大丈夫。今もちましょう。お客様、ひとつ聞きたいんですけど、何分までの説明ならどっか行っちゃいませんか?」

客「、、、10分かな。」

私「承知しました。10分ください。」

垣間見の技 解説

技の出所(でどころ)から。

とんでもない天才は時々同じ時代の同じ場所に生まれます。

千年前の京都に千年後にも世界中で愛されることになるふたりの天才女性ものかきがいました。ふたりは結構似ています。ふたりとも、いろいろあって悲しみの中でそれぞれエッセイと小説を書き、書くことでその悲しみを中和することに成功。そしてその作品はそれぞれエッセイと小説の形をとりながら実はふたりがマスターした悲しみを中和する技の伝授本でもあります。違うのは、小説家のほうは複数の技を使い、エッセイストのほうはただ一つの技を使ったということ。『ひとつだけ』にこだわるお客様にはエッセイストのやり方が合うと判断。このツアーはエッセイストのしたことが追体験できる構成になっています。エッセイストの名は清少納言。書いたのは『枕草子』、技の名は『垣間見の技』と言います。

客「小説家のほうは紫式部。書いたのは『源氏物語』。」

私「はい。話が早い。」

客「私でも名前くらいは知ってる。でも技の伝授本だなんて聞いたことがないんですけどー。」

私「入試に出ないからです。でも知ってる人は結構いますよ。学者さんによって技が定義され名前もつけられています。見立ての技、余白の技、朧、まぎらわし、・・・」

客「わかったわかった。情報量多すぎるよ!信じるから。技ひとつだけの約束でしょ。」

私「はっ!すみません。ガイドという生き物はサービス精神から情報多めになりがちなんです。お客様の判断で止めてください。」

客「そうなのね。わかった。要は、私が覚えるひとつだけの技は『垣間見の技』なんだね。」

私「そうです。清少納言の得意技です。」

客「清少納言が編み出したの?垣間見の技。」

私「いえ。誰が編み出したのかはわかりません。もともと千年前に必要な状況があって自然発生的に垣間見文化は生まれました。それが技と呼べるまでに発展しました。清少納言は、その技のマスター級の使い手のひとりです。」

客「わかんなくなってきた!必要な状況とかって何?」

私「大丈夫です。順を追えば簡単ですよ。それに必ずわかるまで説明します。ガンガン質問ください。そのためにガイドはいます。まず垣間見の語源から行きましょう。垣間見は千年前の生活習慣が語源です。千年前はこの垣間見が貴族の男女の出会いの場。紫式部の小説『源氏物語』にも垣間見シーンが多く描かれています。いつも出会いを求めていた『源氏物語』の主人公、『光源氏』もしょっちゅうしていました。」

客「待って。わかんないことがいくつか。今でも『垣間見える』とかいうよね。チラッと見えるくらいの意味かな。なんでそれが出会いの場なの?」

私「理解には千年前の文化の説明が必要です。千年前の平安時代の女性は基本家から出ませんでした。ずっと家の中ですわって習い事をしたり勉強してすごしていました。だから男性が女性に出会うには垣根の間からチラッと見るしかなかった。」

客「ふんふん。他に方法がなかったんだね。でもまだわかんない。なんのために女性は家でずっとすごしていたの?」

私「モテるためです。」

客「誰に?」

私「天皇や有力貴族に。いわゆる、おしとやかで教養の高い女性が天皇や貴族に好まれましたからね。まだ多様性の時代ではありませんでした。」

客「見えてきた!玉の輿狙いってことね。」

私「そうです。天皇中心の文化っていうことです。天皇に気に入られて取り入ることができたら一族が繁栄しますからね。千年前の人は一族が一番大事でしたから。」

客「わかった。あともうひとつ、そもそもなんだけど垣根って何?イメージが湧かない。」

私「ちょうどいい。最後に技の体験をしてもらうつもりでした。一緒にやっちゃいましょう。今の家は塀に囲まれていますが、千年前は垣根に囲まれていました。」

客「ふんふん。」

私「こんなやつです。文字通りにこの垣根の間から見ることが垣間見(かいまみ)。」

客「ホントだ。漢字を組み合わせると垣間見になる。」

私「そして垣根とセットでこれも覚えてください。縁側(えんがわ)。女性がここに出てきている時が男性にとっての垣間見チャンスです。縁側とは伝統的な日本家屋の居住部分と庭の間にある通路兼こしかけです。」

私「縁側は、五十年くらい前まで、サザエさんの時代くらいまでは、日本人の社交の場でした。みんな集まってお茶したり世間話したりゲームしたり。ルーツの千年前の平安時代も社交の場だったと言えます。垣間見は社交だったんです。縁側なら女性はギリギリ家から出ていない。男性側も道を歩いていたらたまたま垣間見えたという言い訳ができますからギリギリ失礼には当たらない。平安ルールを破っていないギリギリの社交が垣間見だったんです。」

私「では、実際に垣間見体験しましょう。垣根の間から見るとこんな感じ。」

客「わあ!この隙間から家の奥から出てきた女性を見るわけね。・・・って、アンタ!これってのぞきじゃん!のぞきの技!技ひとつだけで世界を変えるって選んだ技がこれなの?」

私「『のぞきの技』とは聞こえが悪い。『枠で風景を切り取る技』と理解しましょう。『垣間見の技』は世界を変える可能性を秘めています。信じてください。」

客「無理!信じられない!うさんくさガイド」

私「見た目はうさんくさいけど中身は誠実です!清少納言が証拠です。彼女は実際にこの技ひとつで悲しみを中和させましたから」

客「悲しみを中和・・・そのワード、なんか気になるんだよね。」

私「ならこのツアー、お客様にピッタリですよ。こんなツアーうちでしかやってないです。」

客「それがうさんくさい!なんでアンタたちしかやってないのよ!」

私「私たちはあるお客様に出会ったからです。滅多にいないタイプのお客様でした。そのお客様に対しての失敗と後悔の記憶があるからです。」

客「・・・・そのお客、私に似てたの?」

私「ええ。そっくりです。(てゆーか、あなたですからね、、、。)」

客「リベンジってわけね。」

私「はい。」

客「わかった。その思いは信じた。しかたないなあ。実験体になってあげるよ。」

私「案外おやさしい。」

客「はあん!案外ってなによ!てゆーか成功させなさいよ!モルモットになってあげるんだから。」

私「はい。そのつもりです。WINWINが私たち『バリアフリーツアー京都』のいつも狙うところです。」

私「続けますよ。垣根のそばには植物が植えられていました。例えば、山吹を植えてこんな感じ。それでは、実験で人をのぞいてみましょう。小説『源氏物語』の中で光源氏に垣間見されたヒロイン『若紫(わかむらさき)』さんに登場していただきましょう。」

客「あんたものぞきって言ってんじゃん」

私「では、若紫さん、どうぞー。」

客「ほー」

私「完成。垣間見の技」

客「いいね。若紫ちゃん。着物の色、花と合ってる。」

私「『山吹がさね』といいます。桜の時期には『桜がさね』、秋には『もみじがさね』などを着て楽しみました』

客「風景とコーディネートしてたんだね。じゃあさ、もしかしたら見られる側の千年前の女性たちも見せることを意識してたんじゃないの?」

私「してたと思います。だって気になる男性がいても女性側からできるアプローチはこの垣間見の反対の『垣間見せ』だけでしたからね。気になる男性が通るタイミングを見計らって縁側に出てきてた可能性あると思います。」

客「あと、一族繁栄に繋がるなら、家族総出でその『垣間見せ』を演出してた可能性ない?まずできるだけカッコよく娘を通行人に見せて、口伝いに「あの家に素敵な子がいるよ」って噂をひろめさせて有力貴族や天皇の耳にまで届かせる作戦。ネットのない時代の口伝えでの娘バズらせ大作戦みたいな。」

私「その作戦楽しそうですね。そうなると、垣根のまわりの植物も中を見えにくくするためじゃなくて、視覚効果を狙って見せるために植えたんでしょうね。家族みんなが自慢の娘のファッションショーを通行人に見せるために。」

客「そう考えると面白いね。お父さんが総合プロデュース、お母さんと妹がメイクと衣装、弟が偵察部隊で「姉上、狙ってる有力貴族の御曹司が通りますよ!」って伝えに来るの。そしたら娘が満を持して悩殺ポーズ!」

私「楽しい!お客様のストーリー。」

客「垣間見は単なる覗きじゃない印象になってきたね。」

私「きっとメディアのない時代のエンターテイメントだったと思いますよ。見せる側も見る側も。だって見せるのがいやなら家の中に引っ込んで戸を閉めちゃったらいいんだから。」

客「そっか。見せる側も楽しんだならゆるす。縁側は通路兼腰かけ兼ランウェイだったんだね。」

私「楽しんだはず。いや、楽しんでくれたと思いたいですね。一族繁栄の武器として使われながらも。」

客「あれ、どうしたの若紫ちゃん?はすにかまえて。」

私「おそらく、若紫さんはサービス精神旺盛でノリがいいので、私たちの話題に合わせてあれをしようとしてくれているんでしょう。」

客「悪い顔になった!」

私「悩殺しようとしていますからね。」

客「えっ!若紫ちゃん、そんなことまでしなくていいよ!いくらサービス精神旺盛でも!」

私「ああっ!若紫さん!なんて恥ずかしいポーズを!」

客「へ?何してんの?」

客「あ、すました。」

私「何もなかったことにしようとしています。若紫さんのサービス精神に敬意を払い、こちらも何も見なかったことにしましょう。」

客「どういうこと?手を見せただけじゃん。」

私「あれが平安時代悩殺ポーズです。平安女性は普段手を見せませんでした。だから手を見せるだけで悩殺できたんです。」

客「そういうこと。チラリズムだね。」

私「清少納言は、仕えた中宮(天皇の后の呼び方)定子(ていし)の手がちらっと見えた時に、「なんてきれいな薄紅色の手!この世のものとは思えない!」と言って悩殺されたようです。そんなシーンが枕草子に描かれています。」

客「なるほどわかった。その時代の慣習を知らないとわかりにくいことってあるよね。他にもあるの?なんていうか平安ルールみたいなこと。」

私「あります。顔を隠すとインパクトが薄いので若紫さんには顔を出してもらいましたが、家族以外、特に男性に顔を見せてはいけないのもルールでした。それに関して、枕草子には定子中宮の顔が見えちゃったハプニングや、清少納言自身も知らない男性に顔を見られちゃったけど、ま、いっか♪エピソードが楽しく書かれています。人の出入りが多い朝廷、その中で仕事する清少納言たちはなかなか平安ルールを守り切るのはたいへんだったみたいですね。」

客「へ~。平安ルールは不自由そうだけど、そのルールがあるから面白エピソードが生まれる側面もあるよね。ドタバタしてる清少納言たちの絵が浮かぶ。」

私「その通りですよね。まだあります。このシーンを見てください。」

客「なにこれ?若紫ちゃんが泣きながら走って来てるの?」

私「そうです。これは小説『源氏物語』の中で紫式部が描いた若紫さんと光源氏の出会いです。初めてヒロインの若紫さんが登場します。『北山の垣間見』と呼ばれる場面。垣間見しているのが光源氏です。平安女性は人前で、立たない、走らない、感情をあらわにしないのが慣習でしたが、このシーンで若紫さんはその掟をすべて破って登場しました。」

私「そしてこれは紫式部の作戦です。ヒロインの若紫に敢えて平安時代ルールを破らせて泣きながら走って登場させることによって、読者の想像を超えるヒロインの登場を演出しました。想像を超えられると人の脳はびっくりします。びっくりさせられると注目するようにできているのが人の脳。結果、物語に引き込まれるというしくみです。現代のドラマでもヒロインが泣きながら走って登場したらまあまあインパクトありますが、平安時代の人にはさらに衝撃的な登場だったでしょうね。」

客「紫式部もすごいね。そんな技法を千年前から。これって現代の芸人さんがいう『つかみはオッケー』てやつじゃないの?」

私「はい。昭和の関西人がいう『最初に一発かましたれ作戦』とも言います。」

客「でもさ、確かに垣根の間からみるとこんなハプニング場面でももう一段素敵に見えるよね。なんで?謎。」

私「実は謎じゃないです。現代科学が効果を裏付けています。理にかなっているんです。最後に垣間見の技のメカニズムを説明してツアーを始めましょう。」

私「人間の目は視界三十度の範囲に要素が三つ以上あれば美しく感じるようにできています。三つの要素を前景、中景、後景と呼びます。」

私「垣間見に当てはめると、垣根の狭い隙間が三十度に近い角度を作ると同時に前景の役割を果たします。そこから中景の若紫さんを見れば、後景には必ず家か空か山か何かあるので最低でも三つの要素がそろいます。仮に若紫さんの後ろに何もないときは、若紫さんの前に花を置いたりペットを置いたりすると要素が三つ以上になります。簡単でしょう。」

客「それ写真や絵でよくやるやつだ。」

私「そうです。」

客「要素はなんでもいいの?」

私「よっぽど一発で人間の本能が嫌がるような要素でなければ大丈夫。」

私「あと、垣間見の枠は必ず完全な枠でなくても大丈夫です。一辺が欠けてても大丈夫。極端に言えば、点や線でもそれがあることによって奥行きが感じられる要素なら垣間見の技は成り立ちます。」

客「わかった。」

私「さあ、説明は以上です。もちものはそろいましたか?」

客「うん。要は、意識するのは枠で切り取って対象物を見ることだよね。後景は勝手についてくるし、枠も完全な枠じゃなくても大丈夫ってことね。もった!『垣間見の技』。ひとつだけだけどね。」

私「ひとつだけでOK。では、『垣間見の技ひとつだけツアー』を始めます。」

京都駅を出発

出発地は京都駅。二階の貫通通路を北へ。

私「タクシー乗り場まで歩きますよ。この時間を利用して、身につけた垣間見の技の練習をしましょう。では私から、」

私「北山を垣間見!ビル群が枠。北山が中景。空が後景。ちなみに北山は、若紫と光が出会った場所です。」

客「ほー。さっきの絵を見たから少し感情が湧くね。あそこで出会ったんだーって。それはそうと、アンタ顔怖いよ!垣間見してる時。子供が見たら泣くやつだ!」

私「しくみは全くわかりませんが、垣間見の技を極めて行くとなぜか垣間見の瞬間に怖い顔になるようです。そして最終的には『般若(はんにゃ)の顔』になるようです。」

客「般若?」

私「こんなやつです。」

客「こわっ!鼻でかっ!」

私「お客様もきっとなりますよ。」

客「いやだ!どういうしくみよ!私はなんない。この鼻には。」

私「垣間見の瞬間だけだからいいじゃないですか。」

客「瞬間的でもいやだ!この鼻だけは!目と口はカッコいいけどね。」

私「どういうセンスですか、、。まあまあまあ、とりあえず練習しましょう。では次、お客様の垣間見の番。」

客「いくよー。どやーっ!」

私「ほーっ!これはなかなか」

客「どう?どう?」

私「すごい!建築物が枠。京都タワーが中景。空が後景。アングルと配置もいい。」

客「ひざまづいていいよ。」

私「『ドヤ顔』!なんだったら最初に「どや」っ言ってるし、、。でもこれだけやれるなら大丈夫。安心してキングの元にお連れできますよ。お客様。」

客「キング?そんなのいるの?垣間見キング?」

私「います。ツアー一発目の行程がキングです。」

客「いきなり?普通最後にしない?」

私「私の好みです。私が企画するツアーはたいてい最初にキングを狙いに行きます。あとはキングをやられて動揺して分断した敵を各個撃破。」

客「戦(いくさ)じゃん。でも楽しみ。早くキングに会いたい!」

私「では、いざ圓通寺へ!キングは圓通寺にあり!」

客「武将じゃん!」

京都駅から圓通寺へ

私「運転手さん、圓通寺までお願いします。」

タクシー運転手(以下『運』)「はいよ~。」

京都駅を北へ向けて出発。

烏丸(からすま)通りを直進。

圓通寺へ。

私「お客様、移動時間を利用して、圓通寺について知識を装備しておきましょう。」

客「オッケー。だけど情報量は少なめにね。」

私「かしこまりました。ひとことで言うと、圓通寺は『比叡山を垣間見』するための建築物です。」

客「比叡山を垣間見。比叡山て関東出身の私でも聞いたことがある。」

私「ええ。古くから京都で愛されてきた山です。まだ情報量いけますか?」

客「いけるわ!どんだけキャパ少ないと思ってんのよ。」

私「その比叡山をさらに愛でるために、垣間見の技を使う場所として圓通寺を設計したのがキングです。」

客「出た!垣間見キング。早く会いたいって。」

私「キングは400年前に圓通寺を設計しました。1000年前に垣間見が男女の・・・」

客「えっ?待って。400年前?キングは過去の人なんだ。なーんだ会えないじゃん。」

私「いえ、会えますよ。キングの魂の一部は圓通寺に残っていますから。垣間見の技を理解した今のあなたならキングの垣間見魂を感じることができるはず。圓通寺ではあなたの『垣間見の技』に魂が注入される予定です。」

客「なるほど。なかなか面白いツアー構成ね。」

私「でしょう。私が企画しました。」

客「調子に乗んないでよ。うさんくさガイド。まだ私の世界は変わってないからね。」

私「しっ!来ます!」

客「えっ!何が?」

私「垣間見対象物です。左側を意識して!垣間見用意!」

客「えっ!えっ!えっ!ちょっと待って!」

私「待てません!京都のタクシーは妙に早いです!相手は今十一時の方向!九時の方向でとらえますよ!」

運「~♪」

客「はあ?!九時ってどっち!?」

私「タクシーの進行方向をアナログ時計の十二時の方向に見立ててください。今ターゲットは十一時。」

私「九時の方向はちょうど左。このまま進むと数秒後にターゲットはタクシーの九時の方向に入りますから、その瞬間に垣間見してください。」

客「えっ!それって戦闘シーンのやつじゃん!えっ!」

私「タクシーの窓が垣間ですよ!来ます。九時の方向!3,2,1,撃て!」

客「ヤケクソ!わーっ!」

私「お見事!垣間見成功!(今目が光ったな。この人。)」

客「ふうー、、。」

私「東本願寺御影堂門です。日本最大級25メートル級の楼門。豪華な装飾が圧倒的な迫力を作り出しています。」

客「説明入ってこないわー!アンタ、こんなイベントあるならあらかじめ言いなさいよ!」

私「お客様ならやれると信じてました。」

客「調子いいこと言って!油断できないガイドめ。」

私「圓通寺の説明を続けますよ。え~っとどこまで行きましたっけ。」

客「自分でイベントしかけて自分で忘れてるじゃん!」

私「思い出しました。圓通寺は400年前にキングによって設計されました。平安時代の垣間見文化は1000年前。それから数えて600年後のことです。この600年でのぞきから始まった垣間見文化は芸術として成熟し、キングと圓通寺によって極まったと言っていいでしょう。」

客「(今完全にのぞきと言ったな・・・。)そんなにハードル上げて大丈夫?」

私「キングと圓通寺に関しては大丈夫です。上げたハードルを軽々と越えて行きますから。」

客「キングってどんな人だったの?」

私「こんな人です。」

客「わ!すごい雰囲気。すだれの奥の目の光!」

私「すだれっぽいのは御簾(みす)と言います。御簾を上げてこちらに垣間見チャンスを与えると同時にあちらも御簾の間からこちらを垣間見しています。いつもその眼力で垣間見を狙っています。」

客「そんな人だったんだ。」

私「いえ。これは私の想像です。」

客「想像なの!そういうエピソードが残ってるとかじゃなくて?!アンタ怒られるわよ!キングを想像で面白可笑しく描いて!」

私「大丈夫です。リスペクトしかないですから。」

客「アップにすな!キング、どうかこのガイドを叱って下さい。おちょくってますよ!」

私「ちょっと!キングに直接話かけてはいけません。キングの時代、まだ天皇に直接話かけることは許されてなかったです。」

客「天皇なの!?」

私「はい。第108代、後水尾天皇です。キングは垣間見の技がキング級なだけでなく、地位もこの国のキング。圓通寺は後水尾天皇の離宮でした。」

客「宮内庁に怒られろ!私電話する!」

私「やめてください。ホントにリスペクトしかないですし、観光はエンターテイメントですから。しっ!来ます!垣間見用意!」

客「また?!垣間見ターゲット?!」

私「今度は二体!二体とも右側を通過します!続けざまにショットして下さい!」

客「難易度たかっ!」

私「ターゲット二体は四条烏丸の交差点にいます。

私「まず奥のターゲット1を一時半の方向。」

私「すぐさまふりむいて通り過ぎた手前のターゲット2を四時半の方向でとらえます。目線は水平から45度上げてください。」

客「無茶ぶりでしょ!これ!」

私「今一時の方向!来ます!撃て!」

客「うぎぎぎ!」

私「お見事!すぐ四時半に振り向いて」

客「腰をやるわ!」

客「やああ!」

私「連続垣間見成功!やりますね!」

客「首もやるわ!45度見上げながらって!」

私「後景を確保するためです。ちなみに最初のターゲットは『京都三井ビルディング』。リニューアルされましたが、1914年、大正四年建築です。そしてこれが『京都ダイヤビル』。これまたリニューアルされましたが、1925年、大正14年建築です。」

客「入ってこんわー!大正がなんだって?!」

私「大丈夫。これらの情報は『垣間見の技』習得に関係ありませんから♪一応ガイドの仕事としてスポットの説明はしますけど、BGMととらえて軽く流しちゃってください。」

※道中の垣間見をまだ続けたい人は動画をどうぞ。

課金などのたぐいではありませんのでどうぞご安心ください。

私「それよりもお客様、あなた、垣間見の技のレベルガンガン上がってますよ。すごいです。目は光るし、黒い御簾みたいなものが顔の周りにぼんやり現れてるし。」

客「ホント?♪今アタシレベル何くらい?」

私「レベル11です。」

客「やったー。ちなみにキングのレベルは?」

私「18000です。」

客「い、いちまんはっせん!」

私「キングですから。」

客「ちなみにあなたのレベルは?ガイドさん。」

私「私ですか?私の垣間見の技指数は未知数です。」

客「シャアか!シャア気取りか!」

私「シャアを知ってらっしゃるんですね。お若いのに。」

客「知ってるわよ。「ガンダムは絶対『ファースト』だ!」ってゆずらない親戚のおじさんに無理矢理『ファースト』から見せられたからね。シャアのニュータイプ指数は未知数。言っとくけどあなた全然シャアに似てないからね。何をしでかすかわからないとこだけ似てる。」

私「そんなにうさんくさいですか?私。」

客「ぶっちゃけ、はい♪」

私「傷つく!」

客「だって垣間見の技なんて聞いたことないもの。運転手さん、『垣間見の技』って知ってる?」

運「しらーん。」

客「ほら!運転手さんも知らないって言ってるじゃん。京都弁で『し』にアクセントで『しらーん』って。本当にあるんでしょうね。垣間見の技。なかったらただじゃおかないからね。」

私「『垣間見の技』はあります!♪」

客「何その言い方!」

私「本当です。圓通寺を見たら一発でわかりますよ。」

圓通寺に到着

私「圓通寺に到着。」

客「楽しみ。いろんなことがハッキリする場所。」

私「キングがいるかいないか。『垣間見の技』があるかないか。」

客「それに、あなたが見た目だけうさんくさいのか、中身も見た目もうさんくさいのかわかる場所。」

私「見た目はどっちにしてもうさんくさいんですね。」

客「うん♪」

私「傷つく!」

客「ごめんごめん♪」

私「冗談です。見た目がうさんくさいのは認めています。とにかく入りましょう。」

私「どうです。垣間見の技を知った今のお客様の目から見た、圓通寺は?」

客「・・・・・」

私「・・・・・」

客「・・・・すごい。垣間見のための枠が無数にある。・・・・それにこの奥行き。要素の取り方が自由自在。」

私「ええ。」

客「・・・・キングだ。」

圓通寺

客「あれが比叡山ね。すごい。ずっと見てられるね。」

私「はい。ガイドの私が言うのもなんですが、ガイドの説明なんてこの風景の前では邪魔なだけかもしれません。」

客「ここも!」

客「ここも!」

客「ここも!」

客「どこを切り取っても垣間見の技が成り立ってる。」

私「でしょう。設計した人は明らかに垣間見の技を知っていて、究極の垣間見空間を実現していると感じませんか?」

客「感じる。認めざるをえないね。垣間見の技もキングも存在した。じゃないとこの空間の説明がつかない。」

私「でしょう。フフフ。」

客「腹立つ!ドヤ顔!」

私「指をささないでください。」

客「でもさ、なんで垣間見の技って聞いたこともないんだろ?」

私「一般的には額縁庭園として説明するからです。」

客「へ?」

私「一般的には額縁庭園として説明するからです。」

客「聞こえたわ!二回言わなくていいよ!びっくりしただけ!アンタねえ、一般的なガイドしなさいよ!額縁庭園なら私もきいたことあるし、そっちのほうが頭に入って来やすいんじゃないの?」

私「垣間見の技のほうが本質なんです。本質とは文化の中でずっと流れているもの。だから他の知識とつながりやすいんです。知識と知識がつながるとストーリーになる。」

客「ストーリー?」

私「歴史という教科はストーリーを感じ始めると面白くなるって聞いたことないですか?」

客「ある。歴史好きの友達がそう言ってた。」

私「そうなんです。つながりのないバラバラの知識を延々と覚え続けるのは苦痛でしかないです。が、そのうち知識がつながりだして脳がストーリーを感じ始めると面白くなる。それを手っ取り早くやろうとすると本質の知識から入るのが正解です。お客様も実感したでしょう。垣間見の技を覚えたら、後水尾天皇と圓通寺がすぐにそれにしっくりつながったでしょう。垣間見の技が本質だからです。」

客「確かに。アンタの狙い通りなのが腹立つけど、垣間見の技とキングと圓通寺、点の知識がつながって線になった。キングが魂を込めて圓通寺を作った物語を感じた。」

私「でしょう。このツアーはひとつだけにこだわるお客様のようなかたのためのツアーです。垣間見の技一本でどんどん京都の観光地や人物がつながってストーリーになっていきますよ。ストーリーを感じるためには多すぎる情報は邪魔になるときがあります。今回のツアーでは、額縁庭園という言葉をわざわざ使わなくても成り立つので省きます。」

客「そんなこと言って、ホントはできないんじゃないの~、普通のガイド」

運「できひんのんちゃうの~」

私「失礼な!ガイドの学校で習ったのでギリギリできます。」

客「ギリギリなんだ、、、。」

私「遅ればせながら、少し自己紹介させてください。私は普通のガイディングでは他のガイドに負けます。」

客「白状したね♪胸張って言うところじゃないけどね、、、どうしてそう思うわけ?理由を述べよ!」

私「物覚えの悪い脳の持ち主だからです。情報量で勝負したらたいてい負けます。」

客「だから胸張って言うところじゃないって、、、」

運「逆に気持ちええなあ」

私「だから興味ある狭い分野に特化して情報を覚える作戦に出ました。興味ある分野なら私の脳でも記憶しやすいですし、その分野とあきらかに関係ない情報は思い切って省けますからね。」

客「その絞った分野って?」

私「技とか作戦です。」

客「わ!バカの男子が好きなやつじゃん!」

私「お客様!令和にその発言は怒られるやつですよ。」

客「ごめんごめん、、、。でもそんなイメージない?」

私「実はわかりますよ♪バカとは言いませんが、ジャンプに夢中になって育った素直な男子はだいたい『技とか作戦』ってワード大好きです。『究極奥義』なんて聞いたらときめくときめく!私もその一人でした。」

客「で、さっきからちょいちょいそれらのワードがガイドに出てくるわけね。謎とけたよ♪ でもアタシさ、一般的なガイドの説明も知っておきたい。だって垣間見の技ってワードをみんな知らないわけでしょ。アタシ友達や家族になんて説明すんのよ。」

私「わかりました。お客様に必要ならやりましょう。久しぶりに普通のガイド。」

客「おお♪お手並み拝見。」

運「おお♪」

額縁庭園説明

私「伝統的な日本家屋には枠(わく)があります。」

私「この枠は二本の垂直の柱と二本の水平な梁(はり)と呼ばれる木材によってできています。二本の梁には名前がついています。床側が敷居(しきい)天井側が鴨居。この枠(わく)は建築強度上、必ず日本家屋にできる枠(わく)ですが、その枠を絵を飾る額縁と見立てて利用して、その枠を通して庭園を見ると庭の風景がまるで絵画のように楽しめる庭園設計になっているものを『額縁庭園』と呼びます。

客「ほー♪パチパチパチパチ♪やればできるじゃん普通のガイド。」

運「うほほーい。」

私「普通のガイドをしてこんなに褒められるって複雑、、、。」

客「得じゃん!あれあれ、普段素行の悪い生徒が普通の事をしたら先生にすごく褒められるあれと同じ♪普段うさんくさいガイドが普通のガイドをしたら褒められる!♪売りにしたらいい。」

私「そんなものですかねえ。」

客「そうだよお。それにアンタの言ってることもわかった。確かに垣間見の技で説明するほうがカバー範囲が広そう。額縁庭園は、垣間見の技で言うとその日本家屋に必ずできる枠が前景、庭が中景、山とか空が後景ってことね。」

私「そうです。ちなみに後景にもともとそこにある風景を使っている場合、その風景をお借りしているという意味で借景(しゃっけい)とか借景庭園と呼んだりします。でも、借景庭園も額縁庭園も垣間見の技で説明できます。京都で知識『ひとつだけ』で推すなら間違いなく垣間見の技だと私は思っています。特に初心者に説明する場合、多すぎる情報は苦痛になります。私自身が多すぎる情報を覚えることで苦しんだガイドですからその苦しみをお客様から省きたい。観光はエンタメですからね。」

客「そんなに物覚え悪かったの?」

私「ええ、歴史なんてテスト対策の暗記科目みたいで大嫌いでした。」

客「歴史嫌いなの!ガイドなのに?」

私「大人になってガイドに必要なので勉強しなおして、そこで知識がつながってストーリーになっていく体験をして、いくらかは好きになりました。でも今でもトラウマで大好きとは言えない部分があります。例えば、租庸調(そ よう ちょう)って言葉覚えてますか?古代の税の事なんですが、これ、米と労働と布の事なんですけど専門家になるならともかく、租庸調って専門用語わざわざ覚える必要あります?「今の税はお金ですけど、古代の税は米と労働と布でした。」でよくないですか!?」

客「わかる!アタシも租庸調くらいでうんざりしてきた。専門用語連発されると嫌になるよね。大人になって使うことないし。」

私「でしょ!素人に専門用語は罪ですよね。ケータイショップの店員さんでも専門用語連発する人嫌いになります。」

客「そうそうそう!」

私「お客様、初めて気が合いましたね。」

客「ふん!馴れ合いはしない♪」

私「そろそろ次の垣間見スポットに向かいましょうか?どうでした?圓通寺は。」

客「すんばらしかった!♪キング最高。」

私「会えたみたいですね。キングに。」

客「会えた・・・と思う。レベル18000を感じた。」

私「よかったです。キングの魂の一部はきっとここに残っています。400年前のキングの魂を圓通寺の関係者の方がおおげさじゃなく血のにじむ思いで現在まで引き継いできています。奇跡に近い。私はいつも多めに賽銭入れます。気持ち程度ですが。」

客「ここから見る比叡山の景色ってさホント特別。ただきれいなだけじゃなくて、さみしさとか悲しさとか、負の要素も入り混じった複雑な景色に感じたんだよね。」

私「ほお。ホントにキングに会ってますね。この国の王の一族はいいものも悪いものもすべてひっくるめてこの世界を愛でようとした一族です。いいことと悪いことは一続きなのがこの世界の本質だと理解した上でそれでもこの世界を愛でようとした一族。キングにもいろいろありました。いろいろあったうえでそれでもこの世界を愛でようとした。愛でるために使ったのが垣間見の技です。」

客「いろいろって何があったの?」

私「そこは今回敢えてぼんやりさせていいですか。このツアーは清少納言のしたことを追体験するツアー構成だと言いましたが、清少納言のしたこととは、いいものだけの垣間見です。枕草子は、いいことと悪いことが必ず起きるこの世界でいいことだけを集めたエッセイです。このツアーでも人間の本能がイヤがるものは見ません。」

客「そうなの?でもキングの事をもっと詳しく知りたいと思ったんだけどね。」

私「悪いことをぼんやりさせても人間の脳はストーリーを作りますよ。だって、いろいろあるのはこの世のあるある。みんな思い当たるふしがあるはず。その記憶が他人のいろいろあったストーリーをカバーします。『いろいろあった』という言葉自体がそのための言葉です。それに私は悲しい物語を話すのが得意なガイドじゃないので。どうしても詳細を知りたかったらツアー終了後ネットで調べたらすぐ出てきますよ。」

客「わかった。確かにいろいろあるのはこの世のあるあるだよね。で、次はどこ行くの?最初の行程をキングにしちゃって大丈夫?ここを簡単に超えられるとは思えないけど。」

私「大丈夫です。ここからは各個撃破に入りますが、クイーン、ジャック、その他の強者が待ち受けています。」

客「垣間見クイーンと垣間見ジャックもいるんだ!楽しみ!」

私「彼らとの出会いを通して垣間見の技のレベルを上げるテクニックを身につけましょう。私は文化の都1300年の多すぎる情報の中に埋もれて見えにくくなってしまっている『あなたに必要なもの』をあなたが見つけるお手伝いをします。そして究極奥義にまでたどり着く予定です。そうなればあなたがどこにいてももうそこは圓通寺ですよ。」

客「はあん!ちょっと何言ってるかわかんないんですけどー!」

客「キング。また会いに来ます。あれっ!」

私「どうしました?」

客「振り返ったらキングが見送ってくれてたような・・・」

私「あなたの中でキングのストーリーが動き出したのかもしれません。もしそうなら・・・、私の狙い通りです。」

客「なんかむかつく。」

圓通寺へのアクセス

客「で、次は何を垣間見するの?」

私「お客様、風を見たことありますか?」

客「風?・・・・・そう言われたらちゃんと意識して見たことないかも」

私「では見に行きましょう。次は、風を垣間見できるスポット三千院です。」

三千院へ

圓通寺を出発

幡枝中通りを北上

宝ヶ池通りで右折 東へ

白川通りで右折 南へ

花園橋で左折 東へ

あとはほぼ一本道 三千院へ

三千院に到着

客「ちょっとガイドさん!どこ行くの?三千院の入り口ここじゃないの?通り過ぎてるよ。」

運「ははは、ガイドにあるまじきミスやな。」

私「普通のツアーでは三千院がメインのことが多いですが、今回の私たちのツアーでは宝泉院というこの先にあるお寺がメインです。」

客「出た!変わりもんガイド。」

運「普通やないガイドしよるな~。」

私「光栄です。」

客「じゃあ三千院は帰りに寄るんだね。」

私「いえ、今回は寄りません。」

客「ええっ!有名なわらべ地蔵に会えるの密かに楽しみにしてたのに~。寄ろうよ~。」

運「わしも久しぶりに往生極楽院の阿弥陀さんに会えるの楽しみにしてたのにい~。」

私「ダメです。今回のツアーは『垣間見の技』の習得を最重要視するあまり、スポットからスポットへの移動時間がかなりかかります。時間が押しているんです。一日で終わんなくなってしまいますよ。」

客「いやだ~!わらべ地蔵ちゃ~ん!」

運「いやや~!阿弥陀ちゃ~ん!」

私「時間がないのでとりあえず先に進みましょう。宝泉院へ!」

客「ここまできてわらべ地蔵ちゃんに会えないなんて残酷だよ~」

客「ね~!聞いてる?!」

私「聞いてません。」

客「残酷ガイド!」

運「血も涙もないガイド!」

客「!」

宝泉院 

客「わあ。いいね。」

私「ご機嫌直してくれましたね。樹齢700年の五葉松です。」

客「ごようまつ?」

私「五つの葉と書きます。葉が五つで一組なので五葉松と呼ばれるそうです。ここの五葉松は樹齢700年、支えなしではもう厳しいくらいの老五葉松です。人間の本能は『老い』を嫌がりますが、ここでの老五葉松の垣間見は、『老い』も悪くないなと思わせてくれます。」

客「確かに。素敵な『老い』の風景だね。」

私「そして『老い』を垣間見することに加えて、ここではもう一つ垣間見してほしいものがあります。」

客「さっき言ってた。風だね。」

私「そうです。ここ三千院界隈は風の通り道のようです。京都市内中心部が無風の日でも三千院では風を感じることが多いです。」

客「わざわざ遠い三千院まで連れて来たのは風を垣間見させるためだったんだね。」

私「そうです。風そのものは単体では見えませんが、葉や枝が風を可視化させてくれます。そして作庭家も風を見せようと意図していることがあります。垣間見の技の使い手の私たちは作庭家の意図を意識し、風を意識するとレベルが上がります。お客様のレベルをあげるためにここにお連れしました。」

客「風を意識。作庭家の意図を意識ね。よし!アタシレベル上がった。」

運「変わってるけどおもろいツアーやな。普通ここではガイドは天井の説明とかするのが定番やけどな。」

客「天井?」

私「しっ!お客様!そのまま動かないで!ひとつお願いがあります。ここでは決して天井を見ないでください!今回のツアーは清少納言の追体験。本能が喜ぶものだけを垣間見するツアーです。天井を見るとツアーが台無しになってしまいます。」

客「わかった!天井は見ない♪」

私「ほっ。素直なお客様でよかった♪」

客「見ないけど・・・、

客「見ないけど・・・、アタシたち、この後わらべ地蔵を見に三千院に行くよね。」

私「う!お客様、それとこれとは話が別・・」

客「天井見るよ!ツアーが台無しになるけどいい?!」

私「う!えっ~と、お客様ちょっとまって・・・」

客「待たない!三秒で決めなさい!三秒後に見るよ!さ~ん、に~、い~」

私「行きます!行きますから見ないで!」

運「うほほーい♪お嬢ちゃん、やったな。交渉上手!」

客「へへーん♪」

私「交渉というか脅迫ですけどね~」

客「イエーイ♪三千院♪三千院♪」

運「三千院♪三千院♪」

客「ほら、五葉松ごしの竹も「いってらっしゃーい」て言ってるよ♪行ってきまーす♪三千院♪」

客「三千院♪三千院♪はーやーく♪はーやーく♪」

運「あみださん♪あみださん♪」

客「ねー、入場料いるって。」

私「当たり前です!」

客「はーやーく♪はーやーく♪はーらーえ♪はーらーえ♪」

運「金はらえ♪金はらえ♪」

私「人聞き悪っ!この悪ノリ観光客ズハイ!」

三千院

客「ここも素敵な垣間見庭園だね~。」

私「聚碧園(しゅうへきえん)と名付けられています。」

客「しゅうへきえん、どういう意味?」

私「聚(しゅう)は『集める。集まる。』碧(へき)は『あおみどり』です。あおみどりを集めた庭と直訳していいでしょうね。」

客「あおみどり?どんな色?」

私「あおとみどりの中間色です。瑠璃色(るりいろ)と表現される時もあります。エメラルドグリーンが近いです。」

客「ふーん。でもさあ、なんで緑じゃなくてわざわざあおみどりなのかな?緑のほうがわかりやすくない?自然の植物の代名詞でもあるし。『わかりやすい』を愛するアタシとしては名前は『集緑園』にしてほしかったなあ」

私「ぎょぎょぎょ!」

客「なに!?とんでもなくベタな驚き方!」

私「そちらこそとんでもなく核心をついた質問です。仏教にとってあおみどりはたいせつな意味のある色なんです。仏教の世界観の中では目指す浄土のイメージがあおみどりなのでわざわざ緑じゃなくてあおみどりにすることで意味がひとつ加わります。これをふまえて『聚碧園』を意訳すると、『浄土に見立ててあおみどりを集めた庭』になります。』

客「そっか!それでわざわざあおみどり!謎が解けた。アンタがさっき言ってた『作庭家の意図』ってやつも明らかになったね。」

私「そうなんです。庭の名前から作庭家の意図がわかることがあります。役に立つガイドでしょう。私。」

客「腹立つ!どや顔!」

私「指をささないでください!」

客「どや顔のガイドはほっておいてわらべ地蔵ちゃんに会いに行こうっと♪行こう♪運転手さん」

運「おお!行こか!阿弥陀さん♪阿弥陀さん♪」

客「わらべ地蔵♪わらべ地蔵♪」

客「かーいまみ♪かーいまみ♪」

客「かーぜ♪かーぜ♪」

私「あ、お客様そこはトイレです。」

客「かーいまみ♪かーいまみ♪」

私「どこで垣間見してるんですか!」

運「ぎゃはは♪ええな!トイレの窓でも垣間見かいな。」

私「お客様、垣間見の技にハマっているでしょう。」

客「ドヤ顔!指さすよ!でも認める。楽しいね。アンタの言った通りこの技ひとつ意識するだけで世界の見え方が変わった。」

私「素直にうれしいです。実は京都は町全体が垣間見の技の特別展示会場みたいなもんです。無数にある、鳥居や、寺の門や窓、ほとんどが垣間見の技の枠として使われています。現時点でのお客様の垣間見の技のレベルと知識でもうお一人でも充分楽しめます。ここで確認したいのですが、お客様のご依頼『世界を変えるツアー』を聞いた時、私は二つの可能性を考えました。今お客様は「世界の見え方が変わった」とおっしゃいましたが、これは私が最初に考えた二つの『世界を変える可能性』のうちのひとつです。これがお客様の目的なら現時点でウインウイン達成になりますが、お客様の目的はこれですか?」

客「・・・、多分もうひとつのほう。」

私「では、お客様は垣間見の技のさらにその奥のほうへ踏み込む必要があります。もう少し知識の詰め込みが必要になりますがまだキャパいけますか?」

客「いっぱいいっぱいに近いけど、やるよ!必要なんでしょ!」

私「そうこなくちゃ♪」

客「腹立つ!にやり顔!」

私「お客様!二本指で目をつかないでください」

客「はいはい♪行こう!垣間見の技の奥のほうへ!」

私「あ、お客様!そっちはトイレの奥のほうです」

往生極楽院へ

客「さあ、気をとりなおして」

運「続きやるか!」

客「わらべ地蔵♪わらべ地蔵♪」

運「あみださん♪あみださん♪」

私「(さあ問題の場所が近づいてきた。あれに触れないようにしなくては。)」

客「あ!あんなとこにポツンと一軒家があるよ」

私「(あれは往生極楽院)」

客「かーいまみ♪かーいまみ♪」

私「(い、言いたい!極楽往生とは極楽に往(い)って生きるという意味ですとか言いたい!でもここは我慢!)」

運「あそこにあみださんがおんねん!」

客「そうなんだ!行こう運転手さん!」

客「素敵な和風ファンタジー庭園だね~。」

私「(言い得て妙!それが極楽浄土の正体とか言いたい~。)」

客「かーいまみ♪かーいまみ♪」

客「かーぜ♪かーぜ♪」

運「風♪風♪」

運「ここや。ここや。ここのあみださんは一味違うからな~」

客「楽しみ!」

運「阿弥陀さん♪阿弥陀さん♪」

客「あみださん♪あみださん♪」

客「ほんとだ!ぉお~っ!」

客「なんかやさしい~。」

私「・・・・。」

客「?。なんで黙ってんの?ガイドという生き物、サービス精神からこの阿弥陀さんの多すぎる説明してよ。どうせなんか知ってんでしょ!」

私「・・・触れてしまいましたね。」

客「なになに!怖い。私なんかふれちゃいけないものにふれちゃったの!?」

私「わかりました。スペシャルステージを始めます!」

客「!」

私「実はここ三千院も『垣間見の技』のレベルを上げられるスポットなのですが、あえて私がここを避けたのは、」

客「なんでなんで?」

私「死をあつかうからです。このツアーは清少納言の追体験、本能が嫌がる死には触れないつもりでしたが、もうやっちゃいましょう!」

客「やめよう!アタシ怖いの苦手なんだってば」

私「大丈夫です。源信(げんしん)の残した技は死の恐怖を和らげこの世界の苦しみを乗り越えるための垣間見の技の発展形です。ちゃんと源信の技ごと習得すれば、死はもう怖いだけの対象ではなくなり、いいものだけを垣間見する清少納言の方法に矛盾しません。」

客「源信?聞いたことがあるようなないような」

私「多分歴史の授業でやってるとは思います。だけど定期テスト対策としては、985(苦はGO)年、源信、極楽往生のための手引書『往生要集』を書く。くらいで充分です。ですが源信の垣間見の技の習得を可能にするためにはもう少し情報が必要です。お客様の脳の中で源信のストーリーが動き出すくらいまで。」

客「情報量増えるんだね。やっぱやめよう」

私「確かに当初の予定よりは増えます。でももし習得に成功したら垣間見の技のレベルは一気に5000増えます。」

客「5000も!それは魅力的♪情報量は時間にしたら何分くらい?」

私「お客様がどっかに行っちゃわない十分以内におさえます。」

客「そっか!じゃあ頼んだよ。情報量最小でね。」

私「承知しました。ではまず、わかりやすくするために源信の時代からさらに1500年前、今からだと2500年前のギリシャにまでさかのぼります。」

客「2500年前!ギリシャ!どんだけ遡るのよ!そこはぶきなさいよ!時間短縮できるでしょ!」

私「必要なんです。逆に時間短縮になりますから。信じてください!」

客「信じる根拠は!?」

私「私は多すぎる情報を大切な部分だけ残して単純化する能力に優れています。なぜなら、私自身、小さい時から暗記が苦手で覚える量をできるだけ少なくすることを意識して生きて来たからです。つまりアホだからこそ身に着けることのできた物事単純化能力です!」

客「あなたがアホってこと?」

私「そうです!」

客「信じた!2500年前のギリシャからレッツゴー♪」

私「こらぁ。ちょっとは疑わんかーい!他はすべて疑うくせに『私がアホ』ということだけはすぐ信じるってどういうことですか!」

客「ごめん!妙に説得力あった♪」

私「複雑!だけど時間がないので始めましょう。2500年前ギリシャの論破王ソクラテスは死刑執行される前にこんな言葉を残しました・・・」

客「死刑!いきなり?なにがあったの?」

私「そこ省きましょう♪いろいろあったんです。省いて大丈夫ですから」

客「わかった」

私「ソクラテスは言いました「お前たち、刑罰として私に死刑を与えるというが、死が悪いものだと思っているだろう。だがどうしてそう言い切れる!お前たち一回も死んだことないだろう。違うか? いいか!教えてやる!可能性は三つある。ひとつは死が『いいもの』である可能性。もうひとつは死が『悪いもの』だという可能性。そしてもうひとつは『無』だ!本当に死は罰なのかな?案外いいものかもしれないよ。ふっふっふ。」 さすが論破王ソクラテス、『いいか悪いか無』という言い方ならすべての可能性をカバーしています。論破できません。さあこれをふまえて時代はソクラテスから1500年後の日本、源信という仏教のお坊さんがいました。やさしいお坊さんで本気ですべての人の心から苦しみを取り除きたいと願い仏教の修行に励んでいましたがまだその方法を見つけられずにいました。そんな時、源信のお母さんが亡くなります。死の直前、お母さんはかなり苦しまれたそうです。見かねた源信は言います。「お母さん、いつか二人で見た極楽浄土の絵を覚えていますか?お母さんは今からあそこに行けるんですよ。何も恐れることはありません。」お母さんは答えます「そうやな。あそこに行けるんやなあ」と。その後お母さんは極楽浄土の絵の思い出とともに笑顔で逝けたそうです。お母さんの死後、源信は気づきます。仏教の目的は心の苦しみを取り除くこと。考えたらあの時、確かにお母さんの心から死の苦しみを取り除くことができた。それを可能にしたのは・・・、『極楽浄土のイメージ』だと。「もしすべての人の心に極楽浄土のイメージを植え付けることができたら・・・、すべての人の心から死の苦しみを取り除けるんじゃないのか!」源信の大作戦が始まります。そして源信の作戦とは垣間見の技の使い手目線で見ると、ソクラテスの『いい』か『悪い』か『無』の死後の可能性のうち、枠で切り取って『いい』だけを見る垣間見の技です。これが源信が開祖だと言われる日本浄土教の本質です。源信が極楽浄土のイメージをすべての人に伝えるために書いたのが往生要集。建てたのがこの往生極楽院です。」

客「ちょっとまって!源信が考えたの?極楽浄土の設定って?」

私「大元(おおもと)は仏教のお経に書いてあるそうです。が、細かい設定は源信が考えたと言っていいでしょう。現在のヒットしてるマンガでもたいてい設定が細かいですよね。設定解説本まで出てます。そのほうがその世界観に入って行きやすいからです。浄土の世界観の設定解説本。これが『往生要集』の正体です。」

客「びっくりだわ!じゃあフィクションじゃん!」

私「ええ。フィクションです。」

客「! ガイドのくせに言い切るんだね。怒られるよ、こんな三千院の真ん中で。」

私「ええ、これは浄土教関係者の一部には怒られるやつです。でも怒られてもいいんですよ、お客様とウインウインになれるなら。そしてこれは私やお客様のような一般現代人に必要なステップです。まずフィクションだと認識すること。」

運「えらいこと言い出したな~。でもおもろい!」

客「でもさあ、むなしくない?はっきりフィクションって言い切ると。うちのおばあちゃんも浄土信じてたよ。」

私「素直に信じられる人はそれでいいんですよ。現代人でも信じて幸せになってる人はいます。問題は私達、小さい時から科学の世界観を刷り込まれて合理的なものしか信じられなくなってしまったタイプの現代人がどうしたら源信のフィクションを信じられるか。」

客「もう無理だよ!アンタがはっきりフィクションだって言うし!」

客「それです。それが多くの現代人の症状です。多分お客様は私と似ています。私も十代の頃、「こんなファンタジーすぎるフィクション誰が信じんねん!」と言って「一番しょーもない宗教やな浄土教」と思っていました。しかし大人になって調べていくと案外合理的だと気付き、今は好きです。もしお客様が私と同じようにフィクションだからという理由だけで源信の浄土教を否定するのなら、それは昔の私と同じで間違った思い込みです。」

客「合理的なの?どこが?」

私「どうやら人の心を救うのはフィクションでもいいんですよ。完全に作り話とわかっているのにマンガを読んで勇気をもらったり、元気になったことないですか?」

客「ある。あるけどさ、」

私「重要なのは現実で役に立つフィクションかどうかです。現実で役に立つ、人をいいほうに導くフィクションを『お呪い(おまじない)』と呼び、人を悪いほうに導くフィクションを『呪い(のろい)』と呼びます。同じ漢字。誰がいつ考えたのかわかりませんがこの漢字の設定もよくできています。源信が広めたのはおまじないです。千年を超えてまだ続くおまじない。私は今でもまったく極楽浄土の存在は信じてない人間です。こんな私でも本能レベルでどこかに刷り込まれているのか、母親と姉が亡くなりましたが、少し悲しい亡くなり方をした母親や姉が極楽浄土にいる姿をイメージすると心が救われることがあります。すごいと思いませんか。死にゆく人だけでなく残された人の心も救っています。しかもこんなうたぐり深くうさんくさい私にも源信のおまじないは効果を残しています。現実で役に立つなら信じてしまう選択はありです!」

客「言ってることはわかるよ。アタシにも思い当たるふしはあるよ。でもさあ、小さい時から科学の知識を刷り込まれて育ってきた私達の世代にはもう源信のおまじないの効果は薄らいでるよね。極楽浄土の世界観はもう本気では信じられないじゃん。」

私「そこです。ステップ2。源信は浄土の設定はフィクションだとわかっていました。自分が作ったんだから当たり前です。源信はフィクションだとわかっていながらそのフィクションのもたらす効果を信じた。現代人の私達はそれと同じことをすればいいんです。世界観は信じられなくても、その世界観がもたらす効果の合理性のほうを信じたらいい。信じる対象の置き換えです。」

客「置き換えたいけど、そんなに合理的かな?浄土教」

私「へ!千年を超えてうさんくさい私にも効果を残してる事実でもう合理的じゃないですか、、、?」

客「弱い!」

私「わかりました。みなまで言います。源信の作戦は親が子に対してよく使う作戦と似ています。子供の頃、薬を飲むのが苦手で嫌がる私に母親はよく言いました「飲みなさい。晩御飯カレーにしてあげるから」と。子供の私はカレーが食べられる未来を想像しながら目の前の薬を飲む苦しみを乗り越えたものでした。ほら、源信の作戦とそっくりでしょ!」

客「はあん!説明へたくそか!どこがそっくりなのよ。ただのどこの家庭でもよくある風景じゃん。」

私「さらにみなまで言います、、、。子供の私にとってカレーが食べられる未来はまだ不確定な未来です。つまりまだフィクションです。これは人が亡くなったら極楽浄土に行ける未来と一緒、不確定な未来。フィクション。でも母親は不確定な未来を子供に信じさせることによって目の前の苦しみを乗り越えさせましたよね。そして実はこの方法は不確定な未来が実現しなくても効果があるんです。実際、私の母親は「冷蔵庫の残り物を食べてしまわないともったいないから今日は堪忍ね」とか言って晩御飯がカレーじゃないこともありましたが、薬を飲む苦しみは乗り越えられている事実は変わりません。実は未来がどうであろうと関係ないんです。信じてしまえば目の前の苦しみを乗り越えられる効果は得られる。どうです。合理的でしょう?」

客「なるほどね。仕組みが合理的なのはわかった。でもでもごめん、私これ無理だわ!やっぱり信じた未来がなかったら私はむなしい!ママが約束したのに晩御飯カレーじゃなかったら私泣きわめくし、パパがお出かけの約束を仕事で破ったら何か月もパパと口聞かなかった。私は信じた未来に裏切られたらむなしくてかなしくて我慢できない。ごめん!」

私「わかりました。そんなあなたにステップ3です。ステップ3では2500年前のソクラテスの話に戻りますよ♪ステップ3はソクラテスの三つの可能性に照らし合わせて損得勘定です。」

客「損得勘定?急にコテコテの商売人みたいなこと言い出したね。変な感じ。」

私「損得勘定という言葉は昔から、特に日本では悪いイメージがありますが、私は、結構使える武器だと思っています。道徳論や感情論が通用しない人、私やお客様のようなファンタジーすぎるものに興ざめする人、サイコパス相手でも通用します。 さあいきましょうか♪ お客様は「期待してた不確定な未来が実現しなかったらむなしい。」とおっしゃいますが、こと『死』ということにおいては大丈夫です♪」

客「なんでよー!」

私「ソクラテスの死後の世界の可能性三つをおぼえてますか?」

客「えーっと、・・・たしか『いい』か『悪い』か『無』!」

私「そうです。生きている時に『いい』か『悪い』か『無』のどれを信じ切れば得かの話をします。話が早いと思うので『死後の世界が無』だった場合から。お客様は「むなしいからいやだ」とおっしゃいましたよね」

客「うん。あると信じててないわけでしょ?」

私「『いい死後の世界』を信じていて『死後の世界が無』な場合、もうあなたの感情も感覚も無です。完全な無。もうむなしさもかなしさもそこには存在しません。お客様の心配しているむなしさももうあありません。しかも、いい未来を信じきっていた場合、死の直前まで希望にみちあふれていたはずです。そこでブラックアウト。これは主人公が希望にみちあふれた状態で終わるドラマや漫画のような終わり方です。逆にわるい未来を信じ切っていた場合、これはたいへんなことになりますよ~、主人公が恐怖と絶望の中で終わるつのだじろうの短編読み切り恐怖マンガみたいな終わり方です。後味悪いですよ~。子供のころの私はしばらくどんよりしました。人生の最後がつのだじろうの短編読み切り恐怖マンガでいいんですか?」

客「いやだ!つのだじろうは知らないけれど意味はわかった!本当だ!たいへんなことになるね!人生の最後の晩餐に間違ってう〇こ食べちゃったくらいの気持ちになるよね!」

私「なんていうたとえですか!下品な!でもそういうことです。人生の途中ならつのだじろうを読んだり間違ってう〇こを食べてどんよりした気持ちになるのはエンターテイメントや経験としてありだと思いますが、人生の最後にあの気持ちはなしだと思います。断然『いい』を信じてたほうが得。わかっていただけましたか?」

客「わかった。じゃあ『無』を信じ切ってたらどうなるんだろう?」

私「その人が『無』をどうとらえているかによります。人によっては『無』をいいものととらえる人がいます。」

客「そんな人いる?」

私「います。たとえば、仏教の創始者ブッダは『この世は苦で満ちている』ととらえました。仏教信者じゃなくてもこれに賛成する人は結構います。そういう人にとっては『無』は解放です。いいものです。ただやはり『無』に対して恐怖や不安やさみしさを感じる人は多いです。そういう人にとっては『無』は悪いものです。あとはさっきの『いいか悪いか』の二択と同じです。もしあなたが『無』をいいものととらえられるなら『無』を信じきるのはありです。でももし『無』を悪いものととらえるなら信じると損しますよ。だって、」

客「最後の晩餐がう〇こになるからだね♪」

私「です!お客様はどうですか?『無』をどうとらえます?」

客「アタシは・・・、やっぱさみしいかな」

私「そしたらもう現時点で、お客様にとっては『いい死後の未来を信じる』ことが一番得!この一択です!」

客「ほんとだ!『損得勘定』思ってたよりもすごいね!でもひとつだけ気になるパターンが残って。いい死後の世界を信じていて、もしわるいものだったら」

私「それも大丈夫ですよ。」

客「なんで?」

私「『いい未来を信じててそれに裏切られること』なんて私達が今いるこの世界の当たり前じゃないですか?この世界のあるあるです。この世界のどの業界のどんな成功者であろうと夢見た未来が実現しなかった回数のほうが多いです。私たちはこの世界で生きてきた。言っちゃえば夢破れのプロです。大丈夫この世界でどうにかなったようにきっとのりこえられますよ。それに、亡くなられた大切な人はいますか?」

客「いる。くたろう。」

私「(くたろう?変な名前。)その場所がいい場所か悪い場所かなんてそこにいる人で変わります。くたろうさんにまた会えるならたとえそこが地獄でもいい場所に変わると思いませんか?」

客「・・・・・」

私「・・・・・」

客「・・・・・」

私「(ん?珍しくノーリアクション。どうした素直でストレートなお客様?)くたろうさんは恋人ですか?」

客「ううん。ペットの犬」

私「(あ~ワンちゃんか~ちょっと弱いか。どうする?プランBに切り替えるか。親鸞のテクニックに・・・)」

客「うん。そうだね。今想像してみた。くたろうにまた会えるならたとえ地獄でもきっと楽しいところに変わる気がする♪」

私「(いけるんかい!奇跡!)そ、そうでしょう!どんなワンちゃんだったんですか?」

客「白い雑種。捨てられてお腹を空かせてたところを私が拾ってきたんだ。なんでも食べた。だから名前は『くたろう』最初は相当お腹がすいてるからかな~かわいそうにと思ったけどその後もなんでも食べた。名前のとおり、なんでも食ってやろうって感じ。食べるのが大好きな犬だった。近所のスーパーライフを通りかかるといつもソーセージを買ってってねだるの。どんだけ食べるのよ!ってあきれたけど、食べるしぐさがかわいくてね。許せた。」

私「スーパーライフでおねだり!もう人間の子供ですね。」

客「そう!自分は人だと思ってるみたいで、時々、二本足で立ったり、人のポーズを真似したりするんだよ!手足が短いのに人みたいなポーズするからおかしくっていつも笑わせてもらった。落ち込んでるときもくたろうがいると気分があがった。うん!信じきってみる!くたろうとまた会える未来を!」

私「来ましたね!今のお客様の気持ちなら「源信の垣間見」ができそうです。そろそろレベルあげときましょうか?」

客「あげとこう!気分もあげていくよ~♪」

スペシャルステージ 源信の死のイメージを垣間見

私「お客様どうしました?欧米の人がする『カモーン』みたいなしぐさをして。」

客「カンが悪いな~察しなさいよ!情報をくれって言ってんのよ。源信の死をイメージするにはまだ情報が足りない!」

私「かしこまりました。情報量大丈夫ですか?」

客「いっぱいいっぱいだけどここまできたらやるしかないでしょ!できるだけ情報量少なくイメージが湧くようにしてよね。」

私「源信の設定はこうです。人が亡くなるとき阿弥陀如来が二十五の菩薩と飛天を引き連れて迎えに来ます。」

客「にょらいとぼさつ?ひてん?はい!わかりやすく説明!」

私「如来はこの世界のしくみを完全に理解し、その知識を使って、心を不幸にみちびく『本能や、本能レベルで人の心にしみついたもの』をすべてそぎ落として心が無敵になった人です。この状態を『悟り』と呼びますが私達が普段使う悟りの意味と違うのがややこしいところで、」

客「だめだ。入ってこない。もっと簡単にして!」

私「かしこまりました。如来は修行して心が無敵になった人です。いけますか?」

客「いける!ぼさつは?」

私「菩薩は、修行してもう無敵になれることが確定している人。が、みんなで一緒に無敵になると誓ったので、あえてまだ無敵にならずに修行中の人を応援したり導いている、敢えてまだ修行中の人です。」

客「菩薩やさしい!なんで如来はやさしくしてくれないの?」

私「やさしさにつけこまれて不幸になるこの世のあるあるパターンを見たり経験したことないですか?」

客「ある!」

私「やさしさは時々悪意につけこまれる弱点になります。如来は無敵なのでその弱点ありません。が、迎えにくる阿弥陀如来もすべての人の心を救うと誓った人です。表面には出ませんがただ淡々と無敵で合理的な方法ですべての人を救おうとはしています。」

客「そういうこと!わかった!じゃあひてんは?」

私「如来と菩薩は人ですが、てんとついたら仏教を応援すると決めたインドの神です。心の無敵レベルは如来、菩薩のほうが上ですが、神なので身体能力は人より上です。飛天は空を飛ぶ特殊能力を持ってます。」

客「わかった。そんな如来と菩薩と飛天がグループで迎えに来てくれるわけだね。」

私「そうです。浄土があるとされる西の方角から音楽を奏でながら来迎します。この往生極楽院の阿弥陀三尊像はまさに迎えに来た到着の瞬間を表現。像が前かがみなのは救いたい気持ちの表れです。」

私「この阿弥陀如来の手のポーズの意味は「迎えに来たよ♪」。来迎印というポーズです。」

客「左右の二人が菩薩?」

私「はい。」

客「ふたりだけか~ホントは二十五菩薩なんでしょ。ちょっとさみしいね」

私「実は天井一面に菩薩と飛天が極彩色で描かれていたんですが、千年ぶんのすすと経年劣化で見えにくくなっています。この先の宝物館に復元された天井画が展示されています。」

客「見てくる!イメージ湧くかも!」

私「あっ!そっちは!」

運「お嬢ちゃん、ちょいまち!」

私「行っちゃいましたね。」

運「途中にわらべ地蔵があんのにな。」

私「でも、気づかずに通りすぎましたね。」

運「目標物しか見えてへんな」

私「垣間見の技がしみついてきたかな」

運「あの子はもとからあんな性格ちゃうか~」

私「そうかも、、、あ!帰ってきた。」

運「帰りも大丈夫そうやな」

私「ええ、こっちしか見てない。なんていう顔をしてるんですかね」

運「ほんまや!こわいな」

客「見てきた!イメージ湧いた!今ならできるよ、」

客「源信の垣間見!どやああああああああ!!!!!!!!」

客「ふぅー」

私「お客様!あなたニュータイプの有り様(ありよう)を素直に示しすぎですよ!」

客「あはは♪シャア気取りだけど、褒められてるみたいだから許す♪」

運「ええ垣間見やったな~くたろうも迎えに来て。たしかに元気にしてくれる犬やな。」

客「でしょ!てゆーか、あんたらアタシの想像見えてんのかーい!」

私「まま、細かいことは気にしないで。それよりもスペシャルステージはもうクリアです。わらべ地蔵に会いに行かなくていいんですか?」

客「そうだった!わらべ地蔵ちゃんはいずこ!?」

私「(さっきあなた通り過ぎてましたけどね)」

客「わらべ地蔵♪わらべ地蔵♪」

客「ああ~っ!!」

客「いやああ!あれは!もしや!もしや!」

客「あれは!まさかまさか!」

私「そのまさかさ。」

客「今シャア気取りすな!いいとこなの!」

客「会えた!わらべ地蔵ちゃーん♪」

客「わらべ地蔵を垣間見!」

三千院へのアクセス

私「次の目的地は嵐山の竹林です」

客「やったー!て、いやいや、まだ安心できない!このガイドだけは!」

運「そうやな~なんせ大原に来て三千院を素通りしようとしたガイドやからな~」

客「客心わかってないよね~観光では客は結局定番を望んでいるもんなのにね~」

私「わかってるんです!わかってるんですけどね~、実は、普通のガイドが苦手なんです」

客「もうダメじゃん!」

三千院から嵐山竹林へ

三千院からほぼ一本道、花園橋交差点へ

白川通、川端通、北大路通、きぬかけのみち、清滝道、丸太町通を通って嵐山のメインストリートへ。

私「到着!必要性があるため、ここでは少し時間を進めますね」

客「そんなのできるの?!」

私「細かいことは気にしないで」

客「わかった。ここでは何を垣間見するの?」

私「定子です。」

嵐山 竹林

客「バカなの?」

私「へ?」

客「いくらなんでも時間進め過ぎでしょこれ!真っくらになっちゃってんじゃん!怖いの苦手っていってるでしょ!」

私「必要なんです。この風景は垣間見クイーンの心象風景です」

客「クイーンってやっぱり清少納言だよね」

私「なんでわかったんですか!?」

客「わかるわ!」

私「ここでは清少納言と清少納言が仕えた定子(ていし)中宮、そして垣間見の技の暗黒面の話をしましょう。」

客「暗黒面があるの!?フォースの暗黒面みたいな?」

私「あります。垣間見の技は枠で切り取ってこの世界の一部を見る技です。この世界にはいいものといやなものがありますが、いやなものばかりを見てしまうと、人の脳は無意識レベルで「この世界はイヤなものばかり」と思い込んでしまいます。そうなるともう本能と一緒です。本能レベルで常に心に働きかけてきます。これが垣間見の技の暗黒面です。今お客様は薄暗い竹林から、さらに暗い、本能が嫌がる闇を見ていますが、これです。これがしてはいけないことです。」

客「な!してはいけないことを今アンタがやらせてんじゃないのよ!」

私「お客様!口から手をつっこんで奥歯をガタガタいわそうとしないでください!「ばかり」と言ったはずです。枠で切り取ってイヤなものばかりを見なければ大丈夫。このあと定子を垣間見しますし、本能レベルで思い込むには一万時間くらい必要です。」

客「一万時間て適当なことを言って!」

私「根拠はあります。が、長くなるので省きましょう。垣間見の技の使い手が覚えるべきは、一万時間か、回数にしたら三万回、が本能レベルで脳にしみつく目安。そしてその風景の衝撃度でその時間と回数は少なくなること。あと、いいことよりも悪いことのほうに人の脳は引っ張られやすいということ。お客様は闇に強く恐怖を感じるタイプみたいなので恐怖に引っ張られて衝撃度が強くなる可能性高いです。」

客「だからアタシ今闇に引っ張られてるって!」

私「大丈夫。定子の闇の破壊力を信じてください。ほら、うしろ」

客「え!」

私「定子は清少納言の太陽でした」

嵐山竹林 定子を垣間見

私「竹林は暗いところから明るいところを垣間見するスポットです。暗いところから明るいところを見ると人間の脳は喜ぶんです。」

客「実感した。太陽が出てきた時うれしかった」

私「清少納言が定子に出会った時の気持ちに似ていると思います。清少納言はいろいろ生きづらさを抱えた人だったそう。」

客「そうなの!そんなイメージなかったな・・・強い人のイメージ」

私「世の中の定番のイメージはそうです。紫式部も清少納言のことを「したり顔でどこにでもしゃしゃりでる人」と表現しています。この紫式部の言葉の影響力が定番のイメージを作っていると私は思います。ここ、ちょっと深くいきましょうか。結論から言うと、清少納言の本当の性格は、本人をもう誰も知らないのでもうわかりません♪研究者の間でも意見わかれています。が、私もアホガイドながらアホなりにいろいろ情報を集めたところ、私の脳がその情報をつなげて勝手にしっくりしたストーリーを作り始めました。それによると定子に出会ってから性格が変わった人説が私の中で今有力です。枕草子に書かれている宮中で働き始めたころの清少納言はずっと引っ込み思案でオドオドしていて紫式部がいう清少納言とは全く違います。今でいうコミュ症の人みたいな印象。実際イヤなことがあって家にひきこもっちゃったエピソードもあります。それに清少納言は薄毛だったそうです。」

客「へーそうなんだ。みんな髪が長かったんでしょ。平安時代って」

私「はい。天皇や貴族に取り入るため、貴族の女性は基本、理想とされたロン毛で勝負していました。そんな中、清少納言は今でいうウイッグをつけていたそうです。今ならショートでもベリーショートでもスキンヘッドでも美しいとされますし、実際私たちの感覚もきれいだと思いますが、長く美しい髪だけがいいとされた偏見の平安時代に、清少納言は自分の見た目にコンプレックスはあったでしょうね。」

客「薄毛でコミュ症。でもいいじゃん!すんごい魅力的な文章を書ける人なんだから!」

私「全然いいです。ただ時代はまだ平安時代、そういう意味で生きづらさはあったと思います。このツアーではそんな清少納言の心的風景をちょうど周りより少しうすぐらいこの竹林だと見立てます。」

私「定子は清少納言にとってこの世界の太陽でした。定子に出会って清少納言の世界はこんなに素敵な風景になりました。」

客「定子ってどんな人だったの?」

私「一言で言うと、人たらしですね。」

客「言い方!宮内庁に電話するよ!ホントに!」

私「やめてください。リスペクトしかないですから。なんだったら私も定子にたらされています。」

客「アンタもたらされてんのかい!」

私「清少納言というフィルターを通すせいもあると思いますが、枕草子の定子のエピソードを読むと定子にたらされます。お客様も定子のエピソードを聞くときっとたらされますよ。」

客「私もたらされるの?」

私「はい。定子は男女LGBTQ関係なくたらします。清少納言だけでなく、旦那の一条天皇もベタぼれ。政敵側の紫式部もたらしている可能性大です。」

客「ちょっとたらされたいかも♪」

私「定子は中宮としてのかたにはまらないところがあり、人を縛るものからの解放者の側面があります。この「かたにはまらない」ところが私も好きです。」

客「なんとなくわかる。アンタもかたにはまらないガイドだからね、、、アンタにとって定子はかたにはまらない教の教祖みたいなもんなんでしょう~。どんなエピソードがあるの?」

私「中宮は神道では天皇と同じく神あつかいです、そんな立場なのに、宮中でオドオドしてる初対面の清少納言にバリアなくガンガン定子から話かけてくれて絵の説明などをしてくれます。薄紅色の手が見えて清少納言が悩殺されたのもこの時です。 ひきこもった清少納言が宮中に帰って来た時に定子が「新人が来た」と言って笑いに変えてくれたりしています。コミュ症の清少納言は『中宮の型』にはまらずむこうから来てくれる定子にかなり楽にしてもらったでしょうね。」

客「なるほど。天然だったとしても計算だったとしてもやさしいね。定子」

私「私もそう思います。どっちにしても清少納言の太陽でしょ。で、ここからは私の脳が勝手につないだストーリーですが、コミュ症の清少納言ですが、実は、自分のためならオドオドしてしまうけど大切な人のためなら世界を敵に回してもガンガンいけるタイプの人だったんじゃないかなと思います。」

客「あー時々いるね。おとなしかったのに、ママになったら、子供のためなら世間と戦える人いるよね。オキシトシンの影響もあるよね。」

私「くわしいですね。そう。それです。清少納言は定子に出会ってしあわせ共感ホルモンオキシトシンがたっぷり出たと想像できます。オキシトシンは共感サークルの外側の人には攻撃的にさせますからね。ママたちと同じく清少納言もたいせつな定子のためなら戦えるタイプだったんじゃないですかね~。あくまで私の脳が勝手に作ったフィクションですが・・・。変貌の原因はさておいて、最初はコミュ症ぽかった清少納言が権謀術数蠢く宮中で男性と互角以上にわたりあうまでになったのは事実です。で、紫式部の知ってる清少納言は変貌後のほうじゃないかなと推測します。紫式部は定子の政敵彰子に仕える看板家庭教師ですから、思いっきり共感サークルの外側の人です。」

客「ほー。一応つじつまがあうストーリーではあるよね。」

しかし、定子との楽しい日々は長くは続きませんでした。宮中の政治的な争いに巻き込まれ、定子は心を病み亡くなってしまいます。清少納言の世界から太陽がなくなりました。

私「こんな感じです。再び夜の竹林。」

客「再びこぅわっっ!(怖)」

私「本能です。闇を垣間見すると怖いんです。

私「清少納言はこの世界の嫌なものばかりを見てしまいました。嫌なものばかりを見ると、悲しみに支配されます。そんな時、清少納言は枕草子を書きました。枕草子は清少納言が見たこの世界のキラキラしたいいものばかりを集めた本。いいものとイヤなもが存在するこの世界で、枠で切り取っていいものばかりを見る。これが清少納言の悲しみの中和方法。『垣間見の技』です。そしてこの方法は現代科学の視点で見ても理にかなっています。現代の心理カウンセラーは、トラウマを抱えた人に、今まで生きてきて心の支えになったことがあれば、意識してそのことばかりを思い出すように勧めます。これは清少納言に代表される『おかしの文化』の手法そのものです。」

客「理屈はわかるんだけどアタシさあ、小さい時から物事から逃げ出しがちの私にパパが「イヤなものから目をそむけちゃダメ」ってよく言われたんだよね。そのせいか、イヤなものから目をそむけるの少しうしろめたいんだよね」

私「それは少々呪いにかかってますね」

客「呪い!怖いってやめてよ。」

私「やめません。私はわけあって呪いを憎む者です。お客様の呪いを破壊します!」

客「急に何者なのよアンタ!雰囲気変わってるし」

私「まず、お客様のお父様は全く悪くありません。お父様は子供のいい未来を願って「イヤなものから目をそむけちゃダメ」と事あるごとにお客様に言いきかせました。これはおまじないです。通常いい方向に働くはずです。そしてお客様もまったく悪くありません。お客様はお父様の気持ちに応えようと、いつもこの言葉を守ろうと努力した。しかしこの『いつも』が間違った思い込みです。呪い発生。すべてのおまじないはどんな状況でもいつもおまじないではありません。状況によっては呪いにもなるんです。すべての言葉はおまじないにも呪いにもなりえるんです。しかし健気にいつもこの言葉を守ろうと努力したお客様の心にはいつしか、守らなかったときにお父様を裏切ったようなうしろめたさが生まれるようになった。そしてあなたのやさしさから生まれたうしろめたさはやつらがつけこむ気持ちです。やつらの好きにさせてはいけません!」

客「呪いを擬人化しだした、、、」

私「ええ、人類のラスボスがいるとしたらそれは呪いです。根絶やしにしなければなりません!いいですか、まずつけこまれるうしろめたさを消しましょう。あなたのお父様はあなたが幸せになるために「逃げちゃダメだ」とおっしゃいました。そんなお父様が、その言葉が呪いに変わりあなたを不幸に導くような時まで「逃げちゃダメだ」とは言いません。あなたはお父様を裏切っていません!うしろめたさなど感じる必要はないんです。そしてお客様の呪いに対するカウンターカースは、」

客「(カウンターカース?専門用語出してきたし、、、コイツいったい)」

私「カウンターカースは「けれども今は逃げちゃていい!」です!」

客「ん?なんでちっちゃい『つ』ないの?」

私「カウンターカースには五七調が適しています。なぜか日本人の心には五七調が侵入しやすいようです。金子みすずの詩が時をこえて現代人にも受けれられるのは五七調だからです。さあ上の句を足して声に出して唱えてください」

客「上の句?」

私「上の句はもちろん、「逃げちゃダメ」です。」

客「(は、恥ずかし!コイツから逃げたい!けれども今は逆らわないほうがよさそう)逃げちゃダメ、けれども今は・・」

私「声が小さい!」

客「は、はい!逃げちゃだめ!けれども今は!逃げちゃていい!」

私「そのとおり!逃げていいんです!清少納言は心が悲しみに支配されそうになりました。逃げなければ心が病んでしまいます。こんな時は逃げていい!日本の戦国時代の三英傑、信長、秀吉、家康もみんな逃げたことがあります。逃げなければ状況から考えてみんな死んでいました。逃げたからこそ生き延びて覇者になったんです。逃げていい!あと、津波!こんなもんからは絶対逃げ・」

客「わーかった!わかったから!逃げるほうがプラスなときあるよね。ホントにわかったからもうもとにもどって」

私「いや、まだお客様の意識部分が納得しただけです。呪いはお客様の無意識部分にもしみついていますから心の無意識部分も説得しなければなりません!」

客「(しつこ!)」

私「無意識部分を説得するにはさっきの、一万時間か三万回が目安です。今日から一年間寝る前百回カウンターカースを唱えてください。それで三万回超えます。」

客「ひ~っ!ひゃっかい!?十回になんない?」

私「ダメです!」

客「狙いをしぼるのやめなさい!アンタ呪いで過去に何があったの!」

私「一日十回なら呪い破壊まで十年かかりますよ。私が我慢できません!やつを十年も生き長らえさすなんて!ちなみに30日でしとめたいなら一日千回という手もありますが・・・」

客「百回にしま~す♪」

私「軽すぎます!嘘をついているでしょう。」

客「ロックオンすな!やるから!絶対やるから!」

私「約束ですよ!必ず実行してください」

客「うん!約束するから♪だからツアーの続きしようよ~」

私「え~っとどこまで説明しましたっけ」

客「ほら、忘れちゃってんじゃん!熱くなりすぎるからだよ。清少納言は闇ばかりを垣間見しちゃったとこまで進んでたよ」

垣間見の技の本質は枠で切り取ってそれだけを見る技です。闇ばかりを垣間見しすぎると、いいことよりも悪いことに引っ張られがちの人の心はこの世界は闇ばかりではないのに闇ばかりと無意識レベルで信じ切ってしまうことがあります。これが垣間見の技の暗黒面のメカニズム。清少納言も不安と悲しみに支配されそうになります。

その時に清少納言がしたことは悪いことばかりの垣間見の反対『いいことばかりの垣間見』です。

武器は清少納言の中にありました。

圧倒的な文章力と定子との思い出です。

枕草子を書いたんです。

枕草子はつまり、清少納言の世界の『おかし』(素敵)ばかりを集めた本。

そして悲しみを中和することに成功。

私「中和成功後の清少納言の心象風景は多分こんな感じ。竹林のライトアップ。」

太陽はもう見えませんが、これはこれで素敵な風景です。

嵐山竹林へのアクセス

そろそろこのツアーもクライマックスに向かいますが、その前に、垣間見の技を使っての庭園巡りが楽しくなるコツをもうひとつ身につけましょう。

客「オッケー♪どこいくの?」

松尾大社です。

松尾大社へ

客「清少納言に代表される『おかしの文化』ってそういうことだったんだね。名前は学校で聞いたことあったけど、内容までは知らなかった。」

私「ええ、でもお客様、『おかしの文化』が呪い破壊の武器として作用することは確かですが、学者さんたちによって認められた定説ではないのでそこは気をつけてください。」

客「わ、またうさんくさ!公の場で言うと恥をかくから気をつけろってわけ、、、。」

私「でもお客様は実際に垣間見の技を習得し現実で役に立つことを実感してくれましたよね。」

客「うん。腹立つけど、ここまではアンタが言う通りだった。」

私「実は、実際に現実でお客様の役に立つ時点でガイドの目的はもう達成してるんですよね。エンターテイメントのツアーとしては成立しています。ガイドにとってはフィクションの説でも現実でお客様に楽しんでもらう役に立つならそれでかまわない。だけど学者さんは違います。ちゃんとした後ろ盾のない説を定説として推すわけにいかない。それこそ立場を失いますからね。その点ガイドは失うものないから強いです。自分の中でしっくりきた説を推しちゃって問題ないです。ただ、諸説あることだけは伝えておかないと、お客様がどこかで恥をかくのは本意ではないですから。」

客「すくなくともアンタの中ではしっくりきてるわけだ。」

私「ええ、めちゃくちゃしっくり来てます。せっかくなので、私自身が気づいて、私の中でめちゃめちゃしっくり来てるけど一般的にはあまり言われてないことをもうひとつ。偶然なのか必然なのかわかりませんが、学者さんによってこの国の文化のベースだとされる『もののあわれの文化』、『おかしの文化』、『仏教文化』は三つとも、『本能や本能レベルで心にしみついた何かが人を良くない方向に導くとき、本能や本能レベルでしみついた何かをそぎ落としたり中和したり破壊する技』を含みます。たとえるなら、『おかしの文化』は垣間見の技による一点突破。『もののあわれの文化』は俯瞰の技による全面展開。仏教は悟りによる各個撃破。ひとつだけにこだわるお客様には垣間見の技による一点突破が適していると、」

客「いくさにたとえんでいい!逆にわかりにくいから。でもそれ本当なの?一般的に言われてないものをなんでアンタは気づいたわけ?」

私「呪いを憎むものだからです。」

客「?」

私「『人を悪い方向に導く本能や本能レベルでしみついた何か』とは、言い換えたら『呪い』のことです。」

客「なんとなく納得、、、。(呪いを憎むもの目線で物事を見てるから呪いを破壊するものに敏感なんだ、、、。コイツ、またあの目してるんじゃないかな。こわいな。こわいけど・・・見てみよ、チラ)」

客「ほらしてた!ロックオンやめなさいって!ほら、ほら着くよ。松尾大社へ」

松尾大社に到着

客「松尾大社。今回神社は初めてだよね。雰囲気あるよね。そういえばさ、神社ってさ、さっき言ってた日本のベースの何文化に入るの。簡潔に述べよ」

私「神道はさっきの平安時代由来の三つのベース文化よりもっと古いです。ベースのベースの文化と言っていいかもしれません。多様化してる神道文化をひとことで言うのはなかなか難しいですが、」

客「なんとかしなさいよ!アホゆえに物事単純化能力に優れてるガイドなんでしょ♪それともついにできないって降参する?」

私「いえ、できますよ♪ひと気がなくなるのを待ってただけです。神道は・・・」

客「わ、またまたうさんくさ!聞かれたら恥ずかしいやつなんだ!」

私「いえ、ファンタジーすぎるものを信用できないあなただけに言いたかったんです。素直に神道の神を信じてしあわせになっている人にとっては野暮なひとことかもしれませんから。神道は、『見えない何かを感じる文化』です。」

客「見えない何か。神ってこと?」

私「神も含みます。ここ松尾大社もそうですが、古代から続く神社は古代人が見えない何かを感じた場所に建てられています。お客様、到着したときに「雰囲気あるね」といいましたよね。」

客「言った。なーるほど、見えない何かを感じたってことか!」

私「多分古代人が感じたものと同じものでしょうね。いい感じでしたか、悪い感じでしたか?」

客「いい感じだった。この先何かいいことが待ってるような。」

私「それはおまじないと同じです。神道はおまじない文化なんです。」

客「!(まさか!つながるの!)」

私「さっきも言いましたが、すべてのおまじないは呪いになりえます。神道はおまじないを生む文化ですが、同時に呪いを生んでしまう可能性もある文化。そして生まれてしまった呪いを破壊する文化が少し遅れて成立します。『おかしの文化』、『もののあわれの文化』、『仏教の文化』しっくりきませんか?」

客「わー腹立つ!アタシもアンタに洗脳されてきたのか、しっくり来た。アタシさあ、思ってたんだけど、日本人てさ、生まれた時は神社に参るけど、お葬式は仏教のお寺だよね。違う宗教じゃん。日本人て節操ないなあって。だけど、神社はおまじないだから生をあつかって、お寺は呪い破壊だから忌みをあつかうって考えたらしっくり来た。それにクリスマスとかハロウィンって日本人にとっておまじないなんじゃないのかなって思った。」

私「!(ララァ!またこえてきた!このお客様)そ、そうですね。神道は多神教、神、つまりおまじないは無限にとりこめますからね。」

客「ん?鼻たれてるけど大丈夫?」

私「たれてません!」

客「わあ!山吹」

私「松尾大社は山吹でも有名です。」

客「山吹でも?」

私「私の中ではあるものを垣間見する庭園として有名です。」

客「あるもの?」

私「庭園でお伝えしてもいいですか?」

客「いいよ。じゃあ行こう。庭園へ」

客「いいね!石が特徴的な庭園だね~。」

私「そうです。昭和の名作庭家、重森三玲(しげもりみれい)さんが作庭しました。」

客「しげもりみれい?」

私「こんな人です。」

客「えっ!」

私「こういう人を想像したでしょう♪」

客「桐谷美玲(きりたにみれい)さんだよね!まさに!アタシ想像しちゃった、、、。ジェンダーレスの令和に生きるものとして恥ずかしい!」

私「人間の脳は今までの記憶によるイメージと言葉を結びつけるしくみでできていますからこの思い込みはある程度しかたないし許してほしいものです。ただ、誰かを傷つける場合があるのはたしかなので気をつけたいですよね。ちなみに、ほら、あの時も「男かーい!」と心の中で叫びませんでしたか?」

客「あの時?」

私「歴史の授業で初めて小野妹子(おののいもこ)を習ったとき。」

客「なつかしい!思ったね。確かに!あとでみんなに聞いたらクラス全員思ってた。」

客「で、作庭家のミレイさんは左肩には石を担いでるのかな?右手に持ってるのは何?」

重森三玲さん、またの名を垣間見ジャック、は巨石を愛し、庭園観覧者の視点をたくみに誘導する人です。右手に持ってるのは視点誘導のベクトルです。

客「へ~こんな人だったんだ~」

私「いえ、これは私の想像です。」

客「またかい!キングを面白可笑しく描き、定子を人たらし呼ばわりし、挙句の果てに昭和の名作庭家とまで言われる人をこんなひょうきんに描いて!重森三玲記念館に電話するよ!」

私「やめてください。それ、似たのがホントにありますから。重森三玲庭園美術館というのがホントに京都にあります。ホントにリスペクトしかないですから。」

客「じゃあ胸の北斗七星みたいな傷とか竈門炭治朗みたいなハッピは何よ!」

私「炭治朗のハッピの模様は市松模様と言って、日本の伝統的なデザインです。市松模様や北斗七星をモチーフにした重森三玲作の庭が京都にあるんですよ。それらのイメージが私の脳の中でつながった結果がこのキャラです」

客「ホントにい!?あるのそんな庭?」

私「あります。よかったらまたご案内させてくださいよ。」

客「また無料?」

私「次回は料金発生します。(罪滅ぼしとは関係ないからね)」

客「けち!」

私「お客様ががめついですよ。まあまあ、ツアーを続けましょう。」

客「そうそう、ここではもうひとつコツを覚えるんだよね?」

私「ここでは宝泉院で少し触れた『作庭家の意図を意識』をもう少し深堀りします。作庭家は客の視点を誘導したいものです。見てほしい何かに客の視点を向けさせたいわけです。そんなとき作庭家は客の脳にベクトル、つまり矢印を感じさせるように庭のパーツを配置します。たとえば、」

私「この風景を見てベクトルを感じるとしたらどっちですか?」

客「わかりやすく上向き方向だよね。こんな感じ」

私「感じましたか?では次のステップ。これは人間の本能に働きかけている罠です。」

客「罠!」

私「はい。ですが、これは敵による罠ではありません。」

運「戦(いくさ)っぽいトークしよるな~」

私「敵ならば誘いに乗ってはいけませんが、作庭家はお客様に楽しんでいただこうとする味方です。ここは素直に作庭家のしかけた罠にはまりましょう。いいことが待ってるはずです。目線を上げてください」

ここでお客様が垣間見するのは『空』です。垣間見ジャック重森三玲がしかけたのは空を見てもらうためのベクトルでした。

空を垣間見

客「ホントだ。おもしろーい♪」

客「この角度もさ、わかったよ!ベクトルの足し算をすればいいんだよね。」

私「(ん?ベクトルの足し算?)」

客「そしてそのベクトルにしたがえばこのとおり!」

私「(かまかけてみよ。)脳内でのベクトルの足し算ですね?」

客「うん」

私「(ほんまかいな!すご!)」

客「ほら、ここもいくつかのベクトルがあるけど、」

客「足せばひとつの大きなベクトルになって、」

客「その方向を向けば、ほら、『空を垣間見』!」

私「(ほんまや!すご!)せ、正解です。(ララァ!どうしたらいい!このニュータイプに打ち勝つ方法は!)」

客「どうしたの。鼻たれてるよ。」

私「気のせいです!それよりも、よくぞここまで垣間見の技を習得しましたね。送り出す者としてうれしいです。」

客「送り出す?」

私「ええ。次のスポットでは垣間見の技の卒業試験を行います!」

客「オッケー!のぞむところ」

松尾大社へのアクセス

客「で、卒業試験の会場はいずこ?」

私「光明院です」

光明院へ

客「卒業試験って何をするの?」

私「今までと逆のロールプレイをしましょう。お客様がガイドで私が客です。自由に自分も楽しみながらガイドしてもらって結構ですが、ひとつだけ条件があります。今日身に着けた垣間見の技の知識を使って楽しんでください。」

客「面白そう!」

私「到着。光明院です。」

客「小さくてかわいいお寺だね」

私「小さいけど宇宙のすべてを感じることのできるお寺だという人もいます。卒業試験の舞台としてうってつけでしょう。」

客「へ~」

私「門をくぐったら卒業試験を始めますよ」

客「オーケー」

垣間見の技ツアー卒業試験 in 光明院

客「ん?これは一体どうしたことでありましょうか!受付に人がいません!」

私「ガイドというか、、、突撃レポーターみたいになってますけど、、、」

客「どうやらこの竹の柱の切り込みに拝観料をいれるようです。」

私「金はらえ♪!はよはらえ♪!」

運「ぎゃはは!やり返しとるな♪」

客「なんということでしょう!カスハラがはじまりました!カスハラには毅然と対処せねば!お客様!しばきますよ!それはカスハラです。」

私「あなたの真似です~」

客「アタシのは悪意ないけどアンタのは悪意~」

私「なんでそうなるんですか~身勝手です~」

客「ハラスメントはやられたほうがどう感じたかなんです~。アタシが悪意を感じたからこれはカスハラ~」

運「子供のけんかやな、、」

客「だいたいアタシはロールプレイでガイドやってんだからちゃっちゃとアンタがはらいなさいよ!」

私「はいはい♪」

客「それでは気を取り直してレポートを続けます!」

客「あ!こんなところにおもむろに本が置いてあります。Put the World in this.『この中に世界を入れなさい』と書いてあります。どうやらこれはこちらのご住職からのなぞかけですね。禅寺なので禅問答でしょうか。そういえば、ここ光明院は小さいお寺の中に『宇宙入ってる』とまで言われているお寺。先に進むとこの禅問答の答えがわかるのでしょうか!」

運「ほー!パチパチパチパチよく読み取れてんな~」

私「ご住職もうれしいでしょうね。気づいてくれて」

客「こ、これは、垣間見がさねだ!受付に人がいなくて少しさみしい感がありましたが、間髪いれず視界に入るこの手間をかけて飾られた空間の存在がご住職に温かく歓迎されていることの証明。素敵な演出ですね」

運「ここの住職かなり粋(いき)やな!」

私「垣間見がさね!うまく名付けましたね。」

客「これは・・・、垣間見の技だ!皆さんご覧ください!作庭家によって垣間見の技が使われています。垣間見の技とは枠で切り取って対象物を見るという単純そうな技ですが、角度30℃の間に要素が三つ以上あれば喜ぶという人間の脳のしくみをうまく利用した技です。ここでは障子と障子、鴨居と敷居によってできる枠を前景に使い庭を見せています。その後ろにはおそらく計算されて植えられた木が後景の役割を果たしています。これで要素は三つそろいましたが、さらにその後ろの後景には空があります。空は自然にそこにあるもの。そこにもとからあるものを後景に利用することを借景と呼びます。」

運「リポーターが板についてきたな」

私「古館伊知郎を思い出します。」

客「むむ!どうやらこの垣間見の風景にはもうひとつ先があるようです。」

客「お~っとこれは、作庭家が視点誘導のためにしかけたベクトルだー!その先には・・・」

空があったー!

私「古館伊知郎じゃん。」

運「新日本プロレスやな。」

客「うっさいなー。誰、古館伊知郎って」

私「言葉の魔術師と呼ばれたアナウンサーです」

客「!」

客「あーっと、あやうく見逃すところでしたが!ここも圓通寺と同じくいたるところに垣間見スポットがしかけられているようです。」

客「ここも」

客「ここも」

客「ここも」

客「これはもう、ま~さ~にぃ、垣間見祭りだ!」

私「お客様、あなた古館伊知郎知ってるでしょ。」

運「そっくりやで!寄せてきてるとしか思えん!」

客「そして、これもくしくも三千院を彷彿とさせる・・・、」

私「お客様、私、あなたが古館伊知郎の娘だと言われても驚かないです。」

客「風を垣間見!」

客「小さいお寺なのにすべてがそろっている!『宇宙入ってる』とはこういうことなのでしょうか!」

客「さらにとどめだと言わんばかりの視点誘導!これは約束の地へのランデブーなのか!?」

客「あれ!ちょっとまって。これって。」

私「どうしました?元のお客様にもどってますよ。」

客「この特徴的な石の形と配置。空へのベクトル。ここ作ったのミレイさんだよねえ!」

私「ほーよくこのレベルまできましたね。ではラストクエスチョンです。」

私「どっちのミレイさんですか?」

客「左だわー!ここでタレントのほうのミレイさん選んだらおかしいでしょ!」

私「正解!お客様、おめでとうございます!卒業試験合格ですよ。」

客「げ!あんたねぇ!合格前の最後の問題これにすなーっ!今まで積み重ねたすべてがバカみたいに感じちゃうでしょーがー!せっかく素敵な垣間見の技なのに!」

私「そこまで垣間見の技を好きになってくれて素直にうれしいです。大丈夫です。お客様の手に入れた垣間見の技の価値はラストクエスチョンがどんなに馬鹿げていても変わりませんから。」

客「まったく最後の最後までうさんくさいんだから!」

私「最後?」

客「へ?最後じゃないの?卒業試験なんていうからてっきり」

私「通常の『垣間見の技ひとつだけツアー』はここで終了ですが、お客様には特別にスペシャル垣間見ステージを用意させていただきました。クライマックスはここからですよ。お客様はまだ武器を手にいれただけです。世界を変えるんでしょう。最後の垣間見スポットにご案内いたします。」

客「オッケー、最後はちゃんとキメなさいよ!じゃないとアンタガイドとして売れないよ!」

私「えー!考えときます。キメるの苦手なんですよね~。」

客「もうダメダメじゃん!」

光明院へのアクセス

客「で、最後は何を垣間見するわけ?」

私「書き換えたフィクションです。」

スペシャルステージへ

客「書き換えたフィクション?」

私「ええ、そして書き換えたフィクションを垣間見することができたら、あなたはあなたの世界を変えることができます。」

客「はあ?ごめん!わかんないや。フィクションフィクションて」

運「ハ!ハクション!!」

客「今くしゃみしないで!フィクションとハクションややこしくなるから!」

運「ごめん、花粉症やねん。今、稲に反応してんねん。」

私「お客様、どこがわからないですか?」

客「なんで書き換えたフィクションとやらを垣間見したら世界を変えることができるの?」

私「あなたが感じている世界観もフィクションだからです。」

客「失礼だなー!アタシが現実を見られてないとでもいいたいわけ?」

私「あなただけじゃなくて、すべての人間がそうなんです。ホモ・サピエンスが認知してる世界、つまり世界観はぜーんぶフィクションなんです。」

客「どういう根拠があってそれ言ってんのよ!」

私「人間の脳がそういうしくみなんです。私は数学が苦手でどう証明したのかは全くわかりませんが、ある数学者がこの世界のすべての情報を認知する存在はないということを数学で証明したそうです。」

客「それホントなの?」

私「学会で認められたということは、複数の数学の天才たちが認めたということなので、ここは素直に専門家たちを信じましょう。なんでもかんでも自分でやるのは無理です。人間とはそういう生き物です。しかし役割分担して協力すれば地球最強です。」

客「わかった。で?」

私「と、いうことは、全く正しく正確に現実のこの世界を認知している人はいないということです。つまり、まだらなモザイクがかかった世界しか人間は認知していない。モザイクで見えない部分は脳が自動的に勝手に想像でカバーして映像を作ってるようなものです。個人差はあるでしょうが、おおかれ少なかれ想像がまざってる時点でもうそれはフィクションです。すべての人が抱く世界観は現実まじりのフィクションかフィクションまじりの現実、フィクションまじりの現実はフィクションがまじっている時点でもう現実ではなくフィクションです。」

客「砂まじりのコミュニケーションみたいに言って!アンタここへきてホントにわけわかんないよ!フィクションフィクションて!」

運「フィ!フィクション!」

客「今くしゃみしないでってば!」

私「(わざとやな。この運転手。もうフィクションてゆーてたし)たとえを変えましょう。お客様英語得意ですよね。」

客「え!なんでわかったの?」

私「光明院で英語をうまく訳してましたし、発音が話せる人の発音でした。思い出してください。語学の勉強を始めた頃って文章を全部聞き取れなくて、まだらにしか聞き取れないですよね。モザイクみたいな感じじゃなかったですか?」

客「そうだけど・・・」

私「それが勉強量や経験がある程度に達するとすべて聞き取れるようになる。でもおかしいと思いませんか?」

客「なんでおかしいの?」

私「あなたの耳の聞き取り感度が上がったんでしょうか?違いますよね。それなら英語の勉強を始めた時、母国語の日本語もまだらにしか聞こえなかったはず。耳の能力は英語習得前とあとで変わってない。でも確かにすべて聞き取れるようになった。なんでだと思いますか?」

客「・・・まさか・・・フィクションだから?」

私「そのまさかです。実はあなたは文章をすべて聞き取れるようになった気がしているだけです。今もあなたの耳はまだらな英語の文章しか聞きとっていない。でも脳が今までの経験でモザイク部分を想像してフィクションで歯抜け部分を埋めることができるようになったので文章すべてを聞き取った気がしているだけなんです。これが人間の脳が作るフィクションの力です。使ってる本人を勘違いさせるくらいの。」

客「確かに思い当たる節はある。勝手な思い込みや想像で誤解して聞きとってしまうことって語学学習者の中でもあるあるだ。」

私「そうでしょ♪人間の脳が作るフィクションは本人が現実と勘違いするくらいなんです。聞きとっていると思っている文章も、見てると思っている風景も、正しく感じとっていると思っているこの世界感もすべてフィクションがまじっている。つまりフィクションです。そしてフィクションなら・・・」

客「フィクションなら?」

私「書き換え可能です。」

運「ヒ!ヒクソン!」

客「だから!今くしゃみ禁止!」

私「(絶対わざとやな・・・ヒクソンゆーてたし!どうせグレーシーのことやろ!)さあ、着きましたよ。」

書き換えたフィクションを垣間見

私「着きましたよ。スペシャルステージの舞台は鳥辺野の陵(みささぎ)」

客「誰もいないね~。」

私「観光地ではないですからね。」

客「もう驚かない。型にはまらないガイドにも慣れた。で、アタシ観光客なんですけど~、観光客を観光地じゃないところに連れてきてどうするつもり?」

私「世界を変えていただたきます。」

スペシャル垣間見ステージ 鳥辺野の陵(とりべののみささぎ)

私「ここは定子皇后のお墓です。一条院皇后宮(いちじょういんこうごうのみや)とは定子のことです。」

客「定子皇后。清少納言の太陽。」

私「ええ、そして場所は特定されていませんが、この辺り、鳥辺野と呼ばれる場所のどこかで清少納言は晩年を過ごしたそうです。亡くなるまで。」

客「きっと定子のそばにいたかったんだね。」

私「そうでしょうね。」

客「どんな晩年だったの。」

私「詳しくはわかりません。が、この本も、このネットの記事も、これもこれもこれも、宮仕えに返り咲くこともなく清少納言の晩年は哀れでさみしいものだったと言ってます。これが一般常識、定説です。」

客「そうなんだ・・・。なんか悲しいね。」

私「でもこれ本当でしょうか?」

客「!」

私「幸せか不幸せかは本人が感じるものです。清少納言本人に聞かないとわかりません。ということは、これらの本も記事もぜーんぶ書いた人の想像のストーリーです。つまりフィクションです。そしてフィクションなら」

客「書き換え可能!」

私「その通り。」

客「定説を疑ってるの?」

私「疑ってるというか、可能性は両方あると思っています。幸せなほうと不幸せなほう。この二つ、垣間見の技を使う私たちが見るべきはどっちでしたっけ?」

客「幸せなほう!暗黒面に引っ張られないために!でもさあ、根拠はあるの?信じ切る根拠がまだ薄いよ。」

私「時代背景から行きましょうか。この時代は古くからの神道の先祖崇拝と大流行の浄土教の影響で人々は本気であの世の存在を信じていました。清少納言もあの世を信じていた可能性高いです。」

客「ほうほうほう、松尾大社でガイドしてくれたやつだ。『見えないものを感じる文化』の神道、先祖の霊の存在を感じてたんだね。つながる。で、浄土教、三千院で源信の垣間見の技を使った時、私達も浄土を信じてみたよね。今ならわかる。平安時代の人たちの気持ちが。ということは、清少納言は定子にまた会えると思ってたってこと?」

私「そうです。そして京都には平安時代から六道の辻という場所があり、そこはこの世とあの世の境目だと考えられていました。その線引きによるとここ鳥辺野はあの世の範囲だということになります。そんな鳥野辺に移り住んだということは、」

客「もう会いに来てたんだ!」

私「私もそう思います。定子にまた会える日を夢見ながら毎日過ごしていました。」

客「ちょっとうきうきしてきたね。」

私「ええ、おまじないに変わり始めましたよね。さらにもう一回定説に戻って定説のあげ足をとりましょう。だいたい、この本の「宮仕えに返り咲くこともなく哀れでさみしい晩年」とありますが、人間関係でしんどい思いをした清少納言が陰謀渦巻く宮中にまた帰りたいと思ってたんですかねえ・・・」

客「うんうん!思ってないよねえ。しかももう定子のいない宮中なんでしょ。もうオキシトシン出ないよねえ。むしろせいせいしたんじゃないかな。そんな気持ち悪いところから離れられて。ひとりで定子との思い出を使って執筆活動してるほうがよっぽど楽しかったんじゃないのかな?」

私「ええ、見事な呪い破壊です!お客様。さすが私の弟子です!この「清少納言の晩年はさみしいものだったストーリー」を私たちで書き換えましょう。ここでお客様が垣間見するのは定説というフィクションを書き換えた『清少納言の幸せな晩年のストーリー』です!」

客「だれがアンタの弟子だ!でも、清少納言の幸せなストーリーを垣間見!いいね!そもそも、清少納言の晩年が不幸せだったなんて想像、千年を超えて読み継がれる枕草子を残してくれた人に対して失礼だよね!」

私「同感です!お客様、やれそうですか?」

客「やれそう!てゆーかやる!今日大好きになった清少納言にオキシトシン出してもらう!」

私「お客様、悪い顔になってますよ。」

客「アンタも悪いシャア気取りの顔になってるよ。」

私「世の中の当たり前の世界観を書き換えようなんて人はだいたいこんな顔です。」

客「わ!何あの雲」

私「想像力をかきたてるにはおあつらえ向きの雲が出てきましたね。しくみは全くわかりませんが、この世界では時々こんなことが起こります。」

客「ここが見えない何かを感じる文化の国だからじゃないの。」

私「いいフィクションです。お客様。さすが私の愛弟子です。」

運「ハ、ハクション! だいまおう~♪」

私「(わざとやし、ふる~)」

客「誰がアンタの弟子だ!しかもまなをつけないでよ!気色の悪い!」

私「ま、ま、ま、行きましょう。WINWINへ!」

私「!(こわ!この人、『黄金の御簾』と『竜のベクトル』!それに加えて『青の知恵の窓』まで現れてる!)」

客「どやあああああっ!」

垣間見の技ひとつだけツアー京都

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バリアフリーツアー京都

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